6-2
「アレンさん!」
アシェンフォード領で一番大きな神殿――見るものを圧倒する荘厳で優美な白亜の建物の前に、それに負けないほど圧倒的に、絶対的に、そして奇跡的に美しい聖騎士さまが立っている。
サラサラのクセのないシルバーブロンド。同じ色の長い睫毛が、黄金色のように見える神秘的な瞳に繊細な影を落としている。肌は白く滑らかだけれど、頬は引き締まって精悍、まっすぐ通った鼻筋は男らしく、薄くて形のよい唇は甘やか。スラリとした長身で、細身ながらも一分の隙もなく鍛え抜かれているのがわかる無駄のない体躯。純白の聖騎士服がこれでもかというほど似合ってる。
いや、もう完璧! 見れば見るほど、このまま美術館に飾っておきたい完璧な美しさ!
アレンさんが攻略対象じゃなかったことが――ううん、攻略対象どころか、脇役ですらゲームに登場すらしてなかったことが、いまだに不思議でしょうがない。どうして? 絶対に人気出たよ?世の乙女のハートを撃ち抜きまくったはずよ?
「お待ちしておりました。アシェンフォード小公爵閣下」
アレンさんが胸に手を当てて恭しく頭を下げ、それから私を見てふっと視線を甘くする。
「そして――我らが聖女」
ひえっ!
その穏やかで優しい笑顔に、思わず目もとを庇って顔を背けてしまう。
あまりに美し過ぎて、神々し過ぎて、なんかいろいろ浄化されそうっ!
「ティア?」
「だ、大丈夫です……」
気にしないでください……。
「ここからはポータルでの移動となります。一瞬で聖都の神殿です。あ、精霊たちはどこに?」
「あ、お兄さまのグチグチを聞きながらの馬車移動は嫌だったみたいで、今は自然と一体化(?)しているそうです」
このあたり、ゲームでは説明がなかったからまだピンと来てないんだけど……精霊は聖女の力で受肉――肉体を得たあとも、もとの精霊の姿というか、意識だけの姿というか、人には見えない・触れられない形にもなれるらしいの。一度受肉を経験したらそこは自由自在になるんだって。
普段は基本、肉体がまだ珍しいのと、私と触れ合えるのが嬉しいし楽しいから、受肉した姿――つまりにゃんこの姿で過ごしてるんだけど……よほどお兄さまの愚痴が聞いてられなかったんだと思う。
「呼べばすぐに出てくるって言ってました」
「では、あちらについてから呼んでもらえますか?」
「わかりました」
頷きながら傍へ行くと、アレンさんがじっと私を見つめる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……」
アレンさんがほんのりと頬を赤くして、アタフタと私から視線を逸らす。
「ドレス姿ははじめて見たので……その、とても綺麗で……」
「あ……」
そうだ。今日は聖都の主神殿へ聖女として挨拶に行くから、久々にドレスを着たのよね。
聖女のイメージに違わないよう、少しアイボリーがかった白いドレス。華美な装飾はなく、清楚。
なんだけど、やっぱりレースとフリルはしっかりたっぷり使われているから、とても重い。いや、ドレスとしては普通の重さなんだけど、普段ドレスなんか着ないからね……。
私としては仕方なく着ていたんだけど、褒めてもらえるとやっぱり嬉しい。
「ありがとう……ございます……」
思わず顔を赤らめると、お兄さまがムッとした様子で私とアレンさんの間に割って入る。
「聞いたかい? ティア。聖騎士だろうと男は男。本能に直結したブツを股間に飼っていることに違いはないんだ。気を許しちゃ駄目なんだよ」
「……その理論で行くと、お兄さまも要警戒対象ですよね?」
お兄さまの股間にも、『本能に直結したブツ』とやらはしっかりあるはず。
私がそう言うと、お兄さまが心外だとばかりに目を丸くする。
「僕は家族だよ!?」
だから何? 家族だから、邪な感情は抱かないって? そうかなぁ? ストーキングぐらいなら平気でやらかすレベルの溺愛っぷりは、普通に家族のラインを超えてると思うけど。




