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第六章 ファストフードは偉大です!

「ねぇ、ティア。聖女の力を得たこと、なんで教えてくれなかったんだい? いいや、教えてくれなかっただけじゃない。アリス・ルミエス嬢が聖女のように見せかけようとするなんて…」


 お兄さまが私に手を差し出しながら、恨めしげにこぼす。


 まだ言ってる…。


 私はため息をついて、お兄さまの手に自分のそれを重ねた。


 私――大人気乙女ゲーム『エリュシオン・アリス』の悪役令嬢、アヴァリティア・ラスティア・アシェンフォードの兄、アルザール・ジェラルド・アシェンフォード。一つにまとめた腰まである艶やかな黒髪に、鋭くも色香溢れる緋色の双眸――。攻略対象たちに勝るとも劣らぬ美貌の青年。年齢は現在二十六歳。アヴァリティアの七つ年上。


 史上最年少で第一騎士団入りを果たし、在学中に人生経験と称して身分を隠して商会を立ち上げ、その商才をいかんなく発揮して一財産を築き上げ、商会を手放してからもその財産を元手に投資を積極的に行ってアシェンフォード家の資産を倍に増やした。そんなことをしていたにもかかわらず王立学園は首席で卒業。文武ともに超一流、経営手腕においては右に出る者がいない――なんて、できすぎもできすぎ、天に一物とか二物どころかすべてを与えられた超天才だ。

 ゲームでは脇役で、攻略対象ではなかったのに、顔もスタイルも最高で能力も超ハイスペック。だから実は、私的に一番好きなキャラだったんだけど……。過去形なのはすべての長所を帳消しにしてしまうほどの尋常じゃない(シスコン)を患っていたから。


 今日も朝からずっとこの調子だ。精霊の受肉に成功したときに知らせなかったのが、よほど気に入らないらしい。


「お兄さま…。何度も言いましたでしょう? 見せかけたわけではありません。わたくしはアリス・ルミエス嬢が聖女の資格を有していると、本気で信じていたんです。学園で彼女が精霊と戯れる様子も目撃しましたし、王太子殿下もそのような発言をなさっていましたし…」


 そして『エリュシオン・アリス』のエピローグで、彼女は聖女として覚醒していたから。

 まさか、悪役令嬢の断罪――破滅までほぼシナリオどおり進んだのに、そのエピローグにバグが生じるなんて思わないじゃない。


「それに、イフリートと出会ったのは、お兄さまとその話をしたあとです」


「百歩譲って、その時点でアリス・ルミエス嬢が聖女だと信じていたとしよう。でも、聖女の力を得たことを僕に黙っていたのは事実だよね? いいや、それだけじゃない。ティア、白状するんだ。できるかぎり内緒にしておくつもりだったろう?」


 うっ……鋭い……。


「お、お兄さまだけではありません。誰にも言っていません。そもそも自分自身、受け止められていなかったと言うか……信じられなかったので……」


「でも、アレンって聖騎士は知ってたじゃないか。僕じゃなくて、会ったばかりの他人が」


 そ、そこかぁ~。引っ掛かってるところは。

 変なヤキモチ焼かないでよ。面倒臭いなぁ。


「わたくしが話したわけではありません。彼はただその場に居合わせただけで……」


「ってことは、彼はティアの家に出入りしてたってことじゃないか。ティア、家族以外の男を家に上げてはいけないって言ったろう? 魅力的なティアを前にして下半身が暴走しない男はいないんだから!」


 ……そんなことはないと思う。


「神に身を捧げた聖騎士さまですよ? そんな邪なことは……」


「だからなんだい? 神に身を捧げたからって、性欲・食欲・睡眠欲という人間の本能と直結した三大欲求がなくなるわけじゃない。むしろ神に身を捧げている人間にとって聖女で天使のティアは理想も理想のはずだよ! 理性なんか保てるわけがない!」


 せ、聖女に天使ときたか! それはさすがに妹を神格化し過ぎじゃない!? 妹馬鹿もシスコンもここまで重篤だと心配になるよ。頭も目も大丈夫!?


「……お兄さま、さすがにアレンさんに失礼です」


 眉をひそめて、お兄さまをにらむ。


「たしかにティアはとても魅力的な女性なので、お兄さまの心配もごもっともですが、私は彼女を傷つけるようなことは絶対にしませんよ」


 と、そのとき、柔らかな低音が響いて、私はハッとして視線を巡らせた。


お待たせいたしました! 連載再開いたします!

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[良い点] 連載再開キター!! ↑↑テンションo|○´∀`|oアゲアゲ↑↑
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