間章2
ギルフォードもまた蒼白な顔で頷く。アリスは小首を傾げた。
「あのぅ、ギルフォードさま? どうして確かめたのがその二人だと、アヴァリティアさまが嘘をついていないことになるんですか? 学生時代、あれだけ傍若無人に振る舞っていた方ですよ? アヴァリティアさまが聖女だなんて……私、信じられません」
そう言って、「あ、誤解しないでくださいね」と申し訳なさそうに俯いてみせる。
「アヴァリティアさまを悪く言うつもりはないんです。でも……私は虐められていたのもあって、なんだか信じられなくて……」
「アリス……。大神官ゼクスさまも知らないのか?」
クリスティアンがやれやれといった様子でため息をつく。アリスの表情が凍りついた。
「え……?」
「もう少し世間のことを勉強してくれ。君を妃に迎えたい。だからこそいつまでも無知なままでいてもらっては困るんだ。それでは貴族連中を納得させられない」
「え、あの……私は……」
「――殿下」
ギルフォードがクリスティアンをにらむ。
「お言葉ですが、臣下を納得させるのは殿下がすべきことです。アリス嬢の魅力は、高位貴族とは違うことにこそあります。高位貴族に迎合することで、民により近い感覚や、素朴で素直な感情、身分問わず接する優しさや気安さなどが失われては元も子もないのではありませんか?」
「っ……それはそうだが……」
クリスティアンが言葉を詰まらせ、奥歯を噛み締めて俯く。
「……アリス、すまない。動揺して気が立っていたんだ」
「あ、いえ。私は大丈夫です」
アリスはわたわたと両手を振って、花のように微笑んだ。
「気にしないでください。殿下」
クリスティアンはもう一度「すまない」と言うと、ギルフォードに目を向けた。
「アルマディン卿、報告ご苦労だった。下がっていい」
「は」
ギルフォードが頭を下げる。
退室するその背中を見送って、クリスティアンはアリスの視線を避けるように背を向けた。
「アリス、俺も戻る。聖都を離れるかもしれないから、心の準備はしておいてくれ」
「あ……殿下……」
まだ納得できていない。いったいどうしてあの女が聖女だなんて世迷いごとを信じられるのか。引き留めようと手を伸ばすも、クリスティアンはまるで逃げるように出て行ってしまった。
(なによ! 私に意見するなんて!)
足音が聞こえなくなってから、アリスはギリッと奥歯を噛み締め、ソファーの上のクッションをテーブルに投げつける。お茶のセットや花瓶などが派手な音を立てて倒れ、床に落ちた。
「そもそも、どういうことよ! アヴァリティアが聖女ですって!? そんなわけないじゃない! あの女は悪役令嬢なのよ!?」
どんなバグが起きれば、二年前に断罪されて退場した悪役がヒロインの役割を奪うなんてことになるのよ!?
「あり得ないわ!」
床に転がったティーカップを踏みつける。
こんなの受け入れられるわけがない。悪役令嬢が聖女として崇め奉られ、ヒロインの自分よりも幸せになるなんて。
どうしてこんなことになったのだろう。ただちょっとズルをしただけなのに。
でも、もう攻略は終わっている。ここからどう巻き返せば――。
そこまで考えて、アリスはハッとして目を見開いた。
「待って。エピローグが上手く進まないってつまり、きちんとエンディングを迎えられてないってことなんじゃない?」
つまり、まだ攻略は終わっていないのだ。だから悪役が戻ってきて、ヒロインの役割を奪った。
だったら、話は簡単だ。
その悪を倒せばいい。
アリスは倒れて割れた花瓶から赤薔薇を抜き取り、その花をぐしゃりと握り潰した。
悪役令嬢・アヴァリティアに破滅を。あるいは死を。
「今度こそ、完全に」
完膚なきまでに。
今、必死に書き溜めをしているところです。
仕事が忙しいのもあり、連載再開は今のところ未定です。春にはなんとかしたいけど、どうでしょうね? 頑張ります!
間章が不穏な感じですが、ご安心ください。続きは相も変わらず美味しいものとモフモフに溢れております。もちろん、いくつかの謎の解決とざまぁもご用意しておりますよ。お楽しみに。
どうぞ、2月9日発売の書籍版『断罪された悪役令嬢ですが、パンを焼いたら聖女にジョブチェンジしました!?』を読んでお待ちくださいませ。
イラストのにゃんこ精霊たち、めちゃくちゃ可愛いですよ!




