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5-15

「マックス! 店内で袋詰めをお願い! そして、アレンさんに……!」


 列整理をしているマックスに声をかけると、すぐさま飛んできてくれる。


「お客さま対応をお願いすりゃいいんだろ? みなまで言うなって!」


 ホント、ゴメン! 明日は最低でも倍の量のパンを用意するし、お手伝い人員も手配するから!今日だけキツいけど、頑張って! 


 マックスが店内に駆け込んでゆき、入れ替わりにアレンさんが、商品の紙袋をクッキーと持って表に出て来てくれる。


「あんバター三つ、あんぱん三つ、そしてこれがあんバター二つとあんぱん一つです」


「ありがとうございます!」


 それぞれお客さまに商品とサービスのクッキーをお渡しして、しっかりと謝意を伝える。


「少したいへんですが、なるべく早く戻りますので!」


「大丈夫ですよ、任せてください。一番たいへんなのはティアじゃないですか」


「え……?」


 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。たいへん? 


「いいえ、たいへんなんかじゃありません! 楽しくて!」


 目論見を大きく外してしまって、三人にいらぬ苦労をかけてしまったことと、お客さまに余計な我慢をさせてしまったことは申し訳ないし、ものすごく反省しているけれど――それだけだ。


 私自身は、こんなのは苦労のうちに入らない。


 だって、楽しいもの!

 好きなことを思う存分やれるのが、楽しくて!

 お客さまが笑顔になる瞬間を見るのが、楽しくて!


 ワクワクしっぱなしなの。

 ドキドキしっぱなしなの。

 幸せで、幸せで、仕方がないの!


「だから、私は大丈夫です! 心配いりません!」


 にっこり笑うと、アレンさんがなんだか眩しそうに目を細める。


 もっとおいしいパンを焼きたい。

 もっとお客さまに喜んでもらいたい。

 なにもたいへんじゃない。それしか考えられないの。


「じゃあ、さらに楽しんできますね! その間、よろしくお願いします!」




 

          ◇*◇





 追加のあんぱんを石釜オーブンから取り出した――そのときだった。


「だから! すべて私が買うと言っているんだ!」


 厨房内にまで響き渡る大声とともに、なにやらガチャンと激しい物音がする。

 小さな悲鳴まで聞こえて、私は慌てて売り場へと出た。


 売り場では、袋詰めをしていたマックスとアニーが手を止めて窓のほうを凝視している。


「な、なに?」


「突然、店の前に馬車が止まって……」


 アニーが窓を指差す。


 店の前には、たしかにゴテゴテとした装飾のなんとも趣味の悪――コホン、華やかで煌びやかな馬車が止まっていた。


 注文を伺う陳列台の前にはこれまた趣味の悪――いえ、ビラビラしたフリルたっぷりの服を着た四十歳ぐらいの男性が一人、仁王立ちしている。えっ!? あ、あれっ!? 待機列は!?


 私は急いで外に出た。


「どうしました!?」


「ティア、ええと……」


 アレンさんが困り果てた様子でため息をつく。


「この人が突然馬車を横づけして、パンをすべて売れと言ってきて……」


「ええっ!?」


 その説明が気に入らなかったのか、男性が眉を跳ね上げる。


「この人、だと? 立場を弁えよ! 下郎!」


 げ、下郎ぉ!?


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