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焼き上がったクッキーは、しっかり冷ましてから少量ずつラッピングする。これでお礼もOK!
「陳列台を外に出したら、あとは……」
最終の指差し確認。商品見本、値札、商品を入れる紙袋、パンの食べ方や注意事項を記載した紙、お金を入れた籠。あとほかに必要なものはあったっけ? 大丈夫だよね?
「よし……!」
私は大きく頷くと、「開店十分前です! みなさん!」と叫んだ。
「注文を受けるのが私とリリア、注文された商品を紙袋に詰めるのがアレンさんとアニー。そしてマックスには列の整理と、そのつどいろいろなお手伝いをしてもらいます!」
「よっしゃ、任せとけ!」
マックスが胸を叩く。その隣で、リリアとアニーも力強く頷く。
「昼前と昼過ぎのタイミングで注文をリリアとアレンさん、袋詰めをアニーとマックスに任せて、私は追加のパン焼き。クッキーも状況とタイミングを見て、私が焼く。これで行きます!」
ああ、もうっ! 猫の手も借りたい忙しさ! 私の精霊たちの手は借りられないけど!
「では、今日一日、よろしくお願いいたします!」
私は四人に深々と頭を下げて――それから笑顔で手を打った。
「さぁ、陳列台を表に出しましょう!」
「「「「はい!」」」」
子供たちが素早く駆けてゆく。
さぁ、いよいよだっ!
ドキドキと胸が高鳴ってゆく。
「いよいよですね、ティア」
アレンさんもそう言って、さらにドキドキする笑顔で、私の前に手を差し出した。
「あなたの夢をはじめましょう」
◇*◇
「あんぱん三つ!」
「あんバター三つ!」
「私も! あんバター三つ!」
「はい! かしこまりました!」
これぞ、『飛ぶように売れてゆく』だ。
今のところ一番人気はまさかもまさか! あんぱんとあんバターだ。今日は個数制限があるから、量があるバターロールやバゲットに人気が集中すると思ってたのに!
「これよ! これ! 前に広場でいただいたのが本当においしくて!」
「そうそう! 見た目にはちょっと驚いたけど、甘くて、しょっぱくて、びっくりしたのよね! また食べたかったのよ~!」
「こっちも、あんバター三つで!」
「俺はあんぱん三つだ!」
「私はあんバター二つとあんぱん一つ!」
「私もそれで!」
か、確実に出てる! 広場でのパン配りの効果!
「は、はい! ええと――」
窓から店内のアニーとアレンさんに注文を伝えてから、お会計。
「ありがとうございます!」
「本当に安いのねぇ」
お釣りをお渡ししたタイミングで、商品とパンの食べ方や注意事項を記載した紙を入れた紙袋とクッキーがサッと出てくる。それを受け取って、お客さまにお渡しする。
「たいへんお待たせして申し訳ありませんでした! 近いうちに個数制限なしでご購入いただけるようにいたしますので!」
深々と頭を下げると、ほとんどのお客さまは「いいのよ」とか「たいへんね」と笑ってくださる。その笑顔にホッとする。
開店からすでに二時間。もう追加のパンを焼く時間なのに、列はまったく途切れることがない。いや、それどころか増えてる気すらする。
もうちょっと落ち着いたらと思っていたけれど――仕方がない!




