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「ドライフルーツのチャンククッキーです。これなら手早くできるので、どんどん焼いて配れます。ドライフルーツがなくなったらナッツを使えば、おそらく今日の分は足りると思います」
「えっ? 配るのですか? 売るのではなく?」
「はい、配ります」
楽しみにして来てくださったのに、個数制限を設けるのは心苦しい。でも、それが最善だと思う。そうしないとすぐに売り切れてしまうから。
でも、個数制限を設けたところで売り切れを避けられるかと言うと、この様子じゃ難しいと思う。売り切れて買えなかった人には本当に申し訳ない。
だから、せめてもの心づくしを。
手ぶらで肩を落として帰ることがないように。
また来たいと思っていただけるように。
「さぁ! 開店準備を急ぎましょう!」
本日の商品ラインナップは、バゲット、バタール、バターロール。クリームパン、ジャムパン、あんパン、焼きカレーパン。そして、バタールを使ったあんバター、バゲットで作ったコーンマヨタルティーヌとピザ風タルティーヌだ。
子供たちと試食を用意する。試食メニューは、クリームパン、あんぱん、あんバター、バゲット、そして二種のタルティーヌ。小さくカットして、籠に見映えよく盛りつける。
「う、美味そう~!」
そろりとピザ風タルティーヌに伸びた手を、リリアがぴしゃりと叩く。
「痛ぇっ!」
「ダメ! これは全部お客さまの! 試食だって数に限りがあるんだから!」
「わ、わかってるけど……。オレ、これははじめて見たからさぁ~」
「ダメったらダメ!」
「ちぇ~!」
本当に、リリアはしっかり者だなぁ……。
「マックス、ちゃんとこのメニューも今度食べさせてあげるから。今日は我慢してね」
ポンポンと優しくマックスの頭を叩くと、彼がぱぁっと顔を輝かせる。ああ、こういうところ、本当にイフリートにそっくり!
「約束だぞ!」
「お嬢さま、あんまり甘やかしちゃダメだよ」
「そうそう。ゴネたらもらえるって覚えちゃうよ。マックスはおバカさんだから」
「バ、バカって言うな! だってさぁ、お嬢さまのパンは全部めちゃくちゃうまいじゃねーか! だから、全部食べたくなるのは仕方がねーだろぉ?」
あはは。嬉しいこと言ってくれるなぁ。
「甘やかしてるわけじゃないよ。だって、ものすごく手伝ってくれてるじゃない? この頑張りにお礼をしないなんて、それこそ私がみんなに甘えてることになっちゃう」
にっこり笑うと、リリアとアニーが顔を見合わせて、肩をすくめる。
「お嬢さまがそう思うならいいけど……」
「でも、やっぱり少し甘いような気もするなぁ……」
まぁまぁ、そう言わずに。
実際、ものすごく助かってるから、お給金とは別にお礼もちゃんとさせてほしいよ。
「もちろん、二人にもお礼をさせてね!」
二人の肩を抱いて、ギュッと抱き締める。
神殿の教えをきちんと守っている二人だからこそ、少しぐらいいい思いをしてほしいよ。それは決して悪いことなんかじゃないから。
「ティア、パンの種類に関係なく『お一人さま三つまで』でいいですか? バゲットやバタールは、クリームパンやあんぱんに比べてかなり大きいですが……。それにバターロールはどうしますか?六つ入りで一つとして数えますか?」
アレンさんが紙を手に、売り場から顔を出す。
「あ、張り紙作ってくださるんですか? ありがとうございます。そうですね、そうしてください。多少の不公平感は、もう仕方がないので……。それより、今日はお客さまを捌くスピードのほうが重要になってくると思うので、ルールは単純なほうがいいかと」
「わかりました」
アレンさんが頷いて、張り紙を作ってくれる。




