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5-13

「ドライフルーツのチャンククッキーです。これなら手早くできるので、どんどん焼いて配れます。ドライフルーツがなくなったらナッツを使えば、おそらく今日の分は足りると思います」


「えっ? 配るのですか? 売るのではなく?」


「はい、配ります」


 楽しみにして来てくださったのに、個数制限を設けるのは心苦しい。でも、それが最善だと思う。そうしないとすぐに売り切れてしまうから。

 でも、個数制限を設けたところで売り切れを避けられるかと言うと、この様子じゃ難しいと思う。売り切れて買えなかった人には本当に申し訳ない。


 だから、せめてもの心づくしを。


 手ぶらで肩を落として帰ることがないように。

 また来たいと思っていただけるように。


「さぁ! 開店準備を急ぎましょう!」


 本日の商品ラインナップは、バゲット、バタール、バターロール。クリームパン、ジャムパン、あんパン、焼きカレーパン。そして、バタールを使ったあんバター、バゲットで作ったコーンマヨタルティーヌとピザ風タルティーヌだ。


 子供たちと試食を用意する。試食メニューは、クリームパン、あんぱん、あんバター、バゲット、そして二種のタルティーヌ。小さくカットして、籠に見映えよく盛りつける。


「う、美味そう~!」


 そろりとピザ風タルティーヌに伸びた手を、リリアがぴしゃりと叩く。


「痛ぇっ!」


「ダメ! これは全部お客さまの! 試食だって数に限りがあるんだから!」


「わ、わかってるけど……。オレ、これははじめて見たからさぁ~」


「ダメったらダメ!」


「ちぇ~!」


 本当に、リリアはしっかり者だなぁ……。


「マックス、ちゃんとこのメニューも今度食べさせてあげるから。今日は我慢してね」


 ポンポンと優しくマックスの頭を叩くと、彼がぱぁっと顔を輝かせる。ああ、こういうところ、本当にイフリートにそっくり!


「約束だぞ!」


「お嬢さま、あんまり甘やかしちゃダメだよ」


「そうそう。ゴネたらもらえるって覚えちゃうよ。マックスはおバカさんだから」


「バ、バカって言うな! だってさぁ、お嬢さまのパンは全部めちゃくちゃうまいじゃねーか! だから、全部食べたくなるのは仕方がねーだろぉ?」


 あはは。嬉しいこと言ってくれるなぁ。


「甘やかしてるわけじゃないよ。だって、ものすごく手伝ってくれてるじゃない? この頑張りにお礼をしないなんて、それこそ私がみんなに甘えてることになっちゃう」


 にっこり笑うと、リリアとアニーが顔を見合わせて、肩をすくめる。


「お嬢さまがそう思うならいいけど……」


「でも、やっぱり少し甘いような気もするなぁ……」


 まぁまぁ、そう言わずに。

 実際、ものすごく助かってるから、お給金とは別にお礼もちゃんとさせてほしいよ。


「もちろん、二人にもお礼をさせてね!」


 二人の肩を抱いて、ギュッと抱き締める。


 神殿の教えをきちんと守っている二人だからこそ、少しぐらいいい思いをしてほしいよ。それは決して悪いことなんかじゃないから。


「ティア、パンの種類に関係なく『お一人さま三つまで』でいいですか? バゲットやバタールは、クリームパンやあんぱんに比べてかなり大きいですが……。それにバターロールはどうしますか?六つ入りで一つとして数えますか?」


 アレンさんが紙を手に、売り場から顔を出す。


「あ、張り紙作ってくださるんですか? ありがとうございます。そうですね、そうしてください。多少の不公平感は、もう仕方がないので……。それより、今日はお客さまを捌くスピードのほうが重要になってくると思うので、ルールは単純なほうがいいかと」


「わかりました」


 アレンさんが頷いて、張り紙を作ってくれる。


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