5-12
「――これ、外に出しましょう」
アレンさんが売り場の中央の陳列台をポンと叩く。
一瞬、発言の意図が理解できず、私は目をぱちくりさせた。
「は、はい? ええと……?」
「そして、今日は店の前で売りましょう。ドアの前に台を置き、見本と試食籠だけ並べて、注文を受けるんです。そのほうが混乱も少なく、トラブルになりにくいはずです」
「あ……!」
――なるほど。たしかにそのほうがよさそう。
そういえば、二十一世紀の日本でも、ショーケースに並んだパンを選んで、店員さんに注文するスタイルのパン屋は結構あるもんね。
「さらに、申し訳ないけれどこの人気なのでお一人さま三つまでと、個数制限を設けてはいかがでしょうか?」
「そうですね……」
できることなら、したくない。オープン前から並んでくださってるんだもの。それだけ楽しみにしててくれたってことでしょ? ほしいだけ、お金が許すかぎり気が済むまで買ってほしい。
だけどそうすると、下手したら昼前に売り切れてしまう可能性もある。
でもなぁ~! これは完全に私が客入り予想を誤ったせいだもの。お客さまにはなんの落ち度もないもの。それなのに、お客さまが我慢しなくちゃいけないっておかしくない?
とはいえ、現実問題、個数制限を設けないとお客さま全員に商品が行き渡らない。
いえ、それどころか、個数制限をしたところで、全員が買えるかどうかは怪しいところだ。
どうする?
どうすれば、お客さまをがっかりさせないで済む?
今からパンの量を増やすことはできない。
なんならできる?
「……あ!」
私はガバッと勢いよく顔を上げて、壁の時計を見た。
オープンまであと四十分! ――まだ間に合う!
私は「みんな! 厨房に来て!」と叫んで、奥へと駆け戻った。
バターは室温に戻したものがある! 玉子、砂糖、小麦粉ももちろん! ベーキングパウダーはこの世界にはまだないけれど、重曹はある! よし! イケる!
「リリア! ドライフルーツのシロップ漬けの瓶を出して! 中身をザルにあけてちょうだい! 余計なシロップを切ったドライフルーツがほしいわ! マックス! 石釜オーブンを予熱して! アニーは、天板にバターを薄く塗ってちょうだい!」
「うん!」
「わかった!」
私の指示に、三人が素早く反応する。
「アレンさんは、玉子です!」
ボウルに手早く計量した砂糖と油、そして玉子を割り入れて、アレンさんに渡す。
「しっかり混ぜてください!」
アレンさんがそれを混ぜている間に、小麦粉と重曹を計量し、ストレーナーで丁寧にふるう。
「アレンさん!」
「はい! できました!」
アレンさんのボウルにそれを入れ、粉がなじむまで木ベラでしっかり混ぜ合わせる。
できあがった生地に、余分なシロップを切ったドライフルーツを混ぜ込む。
「アニー、天板の準備はできた?」
「うん! できたよ!」
アニーが作業台にバターを塗った天板を並べてくれる。ありがとう! 助かるっ!
「じゃあ、リリア、アニー、マックス、そしてアレンさん。よく見ててね。生地をこのぐらいずつ手に取って、丸めてペタンです」
四人に見せながら生地を適量手に取り、手のひらをこすり合わせるようにしてくるくると丸めて、最後にペタンと手を合わせて生地を潰す。それを天板に等間隔に並べてゆく。
四人でやると、あっという間に大きな天板四枚分が埋まる。
それを予熱した石釜オーブンに入れて、二十分焼き上げる。
「ティア、これは?」




