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「い、いや――金に近い色合いの目をした、ものすごい美形だったり……する?」
「ええ、まさにそうですわ」
「どうして、あの御方のことを!?」
お、御方?
その言葉にびっくりしてしまう。
アシェンフォード公爵家の跡取りであるお兄さまが、『御方』なんて呼ぶって……。
「え、ええと……? あの、お兄さま? いったい……」
予想だにしなかった反応に、戸惑うしかない。いったいなんなの? この反応。
ポカンとするしかない私に、お兄さまはひどく真剣な眼差しを向けた。
「その御方について、僕から話すことはできない。――機密なんだ」
「は、はい?」
アレンさんが、機密――!?
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! それはどういう――?」
「どうもこうもない、言葉のとおりだよ。僕はその御方についてなにも言えない。口にすることを許されていないから」
そ、そんなことある!?
「そんな……話題にすることを許されてないなんて……どうしてです?」
「それも、言えない」
「……お兄さま……」
「ゴメン、ティア。君のためにも、言えないんだ」
私のためにも?
その言葉に、背筋がヒヤリとする。
「もしかして……機密に触れて罰せられるのは、話したお兄さまだけじゃないということですか?それを聞いたわたくしも?」
「――そうだ」
「っ……!」
さまざまな思いが胸を去来する。
正直、後悔している。どうしてアレンさんのことを話しておこうなんて考えちゃったんだろう。
そんなこと考えなければ、こんな――不穏な話を聞かなくて済んだのに。
私は気持ちを落ち着けるべく目を伏せ、そっと息をついた。
「……わかりました。では、これ以上尋ねませんわ」
「……そうしてくれると助かるよ」
「ですから、これからもアレンさんとは変わらぬおつきあいをさせていただきますわね」
「……! ティア、それは……!」
「当然でございましょう? 不確かな意見を鵜呑みにしてつきあい方を変えるなんてありえません。そんな恥ずべき真似を、わたくしがするとでも?」
そんなことはしない。
私は私自身の目を、耳を、信じる。
誰がなんと言おうと、アレンさんはいい人だ。私はそう信じてる!
「それは……そうだけれど……」
お兄さまはガシガシと頭を掻いて、諦めたように肩をすくめた。
「変わらぬおつきあいって……そもそも、どういうおつきあいをしているんだい?」
「そんなこと、お兄さまに説明する必要はないと思いますが……」
そうは言っても、変な誤解もされたくない。
「大切な友人ですわ」
そう――。アレンさんにどんな謎があろうと、それは変わらない。
今までも、これから先も、アレンさんは私の大切な友人だ。
「そう……」
胸に手を当ててきっぱりと告げた私に、お兄さまは再度肩をすくめた。
「じゃあ――帰るよ。弟子について、そしてトースターについて、また連絡するね」
「ありがとうございます。お待ちしておりますわ」
お兄さまがにこやかに手を振って、店を出てゆく。
私もニコニコしながら手を振り返して――ドアが閉まったのと同時に、そこに駆け寄った。
息をひそめて、ドア越しに外を窺う。




