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「さ、どうぞ召し上がれ。バタートースト、ジャムトースト、ハニーバタートースト、あんバタートーストですわ」
二人分の四種のトースト。
お兄さまと従者が目を丸くして、まじまじとそれを見つめる。
「ティ……ティア? あの、泥がついてるのがあるんだけど……」
「泥に見えますが、泥ではないので大丈夫です」
「大丈夫って……」
つべこべ言わずに食べなさい。
「お兄さまは、わたくしを信じてくださいませんの? わたくしのことを、大切なお兄さまに泥を食べさせるような女だと……?」
目をうるうるさせて、『ティア、ショック……!』と言わんばかりのぶりっ子ポーズをすると、お兄さまがカッと目を見開いて「まさか!」と叫ぶ。
「って言うか、ティアが僕のために作ってくれたものなら、泥であったとしても喜んで食べるから、まったく問題ないよ!」
だったら、つべこべ言わずに食べろ!(二回目)
『アンタはそうかもしれないけど、自分は普通に嫌なんですけど?』って顔をしている従者の前で、お兄さまが果敢にもあんバタートーストにかぶりつく。
「こ、これは……!」
しっかり咀嚼して呑み込んでから、唖然とする。
「おいしい……! この泥、なんて上品な甘さなんだ……! いや、それより……!」
そして、信じられないといった様子でバタートーストを手に取り、まじまじと凝視した。
「これがパン!?」
「ええ、食パンをトーストにしたものです。この四種類だけじゃありませんのよ。エッグトースト、チーズトースト、ピザトースト……アレンジメニューは無限ですわ」
そう言って、従者にも勧める。
従者はひどく気乗りしない様子だったけれど、それでもお仕えする家のお嬢さまの勧めとなれば断ることはできなかったのだろう。おそるおそるバタートーストを口に運んだ。
「ッ……!」
瞬間、大きく目を見開いて、そのままものすごい勢いで四種類すべて完食してしまった。
見た目泥の餡子にもまったく怯む様子はなかったから、よっぽどおいしかったんだろう。
「こ、これは……!」
「どうです? わたくしのパンとともに売り出す――。そのまま食べてももちろんおいしいですが、このトースターを使って焼いたり、アレンジをして食べる。絶対に売れると思いませんか?」
「思う!」
「思います!」
二人が大きく頷きながら、食い気味に叫ぶ。
「これは売れるよ! 間違いなく!」
お兄さまが興奮気味に言って、顎を撫でる。
「レシピブックは必須だね。それをつけるかつかないかで、売り上げはかなり違ってくるはずだ。先んじて、コーヒーハウスやパブに置くのもいいね。そこで、軽食としてトーストを出す。それが手軽に家庭でも食べられるとなれば、絶対にほしいと思うはずだ」
従者も大きく頷く。さっきまで今にも気絶しそうな感じだったのに。
「あ……! ティアのパンの値段は? 民にこそってことは……」
「今あるパンと、さほど変わらない値段ですわ。それで充分、利益が出ますの」
お兄さまと従者が顔を見合わせる。
「すごい……! ティアのパンは……このトースターは……民の生活を劇的に変える……!」
お兄さまはぶるっと身を震わせると、値段を書いた紙をドンと台に置いた。
「ティアが提示した値段でいい! 充分だ!」
「しかし、アルザールさま。それには――」
「ああ、わかっているとも。ニコラウス。それには、ティアのパンをもっと爆発的に広めることが必須となる」
もの言いたげな従者に、お兄さまが頷く。
私はパチパチと目を瞬いた。
「爆発的に、ですか?」




