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「魔石を使い切るまでと、魔石を交換後に再度魔石を使い切るまで動作耐久テストを行ったうえで、量産体制はどのぐらいで整えられます? お色はこのオフホワイトと……そうですね……ミルキーグリーンなんていいと思いますわ。あとは、絶対にブラックもほしいですわね」
「三色も必要かい? オフホワイトとブラックだけでいいなら、早めにできると思うけれど」
うーん、可愛い色もほしかったけど、そこは妥協すべきところかな?
あとから新色販売したっていいし、まずはスピードを取るべきよね。
「わかりました。では、オフホワイトとブラックの二色で」
私は奥から紙と万年筆を持ってくると、お兄さまの目の前でサラサラと数字を書き記した。
「販売のお値段は、このぐらいがよろしいのですが」
さすがは、お兄さま。その数字を見てもお兄さまは一切顔色を変えなかったけれど、お兄さまの後ろにいた従者はそれを見てぎょっと目を見開いた。
「……さすがにそれは安すぎないかい?」
とんでもないとばかりにブンブン首を横に振る従者を目で制して、お兄さまがやんわりと言う。
「貴族からしたら、そうですわね。でも、わたくしは民にこそ使っていただきたいので」
だから、ここは譲れない。
「うーん……そうだなぁ……」
お兄さまが少し考えて、その紙に新たな数字を書く。
私が書いた値段の、およそ倍。
「このぐらいじゃ駄目かい?」
私はにっこり笑って、すばやく回れ右をした。
「――さっさとお帰りください。この役立たずが」
「わあぁあっ! 待って待って! ごめんなさい! ごめんなさい!」
お兄さまが大慌てで私の腕に縋る。
「お離しください。もうお話しすることはありませんから」
「そういう冷たい態度にも興奮するけども! 再考する! 再考するから! 待って!」
――最初の『興奮する』発言、いる? 本当に変態なんだから。
私はため息をついて、お兄さまに向き直った。
「では、どうぞ」
「ええと……そうだなぁ……」
お兄さまがほとほと困り果てた様子で、万年筆でこめかみあたりを掻く。
後ろの従者はもう顔面蒼白だ。ブルブル震えながらお兄さまの手もとを凝視している。
おそらく、開発費から考えたらお兄さまが提示した金額でも破格の安さだと思っているんだろう。当然、その半分の値段で大量生産なんてありえないって。
そんなこの世の終わりみたいな顔しないで。大丈夫だから。これはアシェンフォード家に大きな利益をもたらすから。
私は小さく肩をすくめて、トースターに手を置いた。
「お兄さま、これは冷蔵庫などと同じく、生活必需品となるものです。まぁ、そうですわね……。十年以内には、各家庭に必ずあるものとなるとお考えください。そのうえで、値段設定を」
その言葉にお兄さまと従者が目を見開く。
「そんなに売れるかい?」
「お値段次第ではありますけれど、間違いなくそれだけの力がある商品ですわ」
「…………」
お兄さまと従者が顔を見合わせる。
お兄さまはともかく、従者は『そんな馬鹿な』って顔だ。
「信じられませんか?」
「……いや、だって、パンって焼く必要ある? 余計に固くなるだけじゃない?」
あ。
「そうでした。お兄さまにはまだわたくしのパンを食べていただいてませんでしたわね」
じゃあ、理解できなくても仕方がない。
私は奥から新たな食パンとバターやジャムなどを持ってきて、二枚スライスして、トースターの中に入れた。
二分経過してコロンと鐘が鳴ったら、トーストを取り出してたっぷりのバターを塗る。そして、四等分ずつにカット。
四分の一はそのまま。あとの三つには、ジャム、はちみつ、餡子をそれぞれ載せる。




