4-18
「精霊たちは、夢に向かってひたむきに努力するあなたに惹かれて、声をかけたんです。そして、あなたが焼くおいしいパンの虜になった。彼らは、あなたから好きなものを奪うことだけではなく、自分たちからあなたが焼くおいしいパンを取り上げることも駄目だと言ってます」
「え……ええ、そうですね。ありがたいことに……」
「つまり、あなたがいて、あなたが焼くおいしいパンがあって――はじめてこの国は彼らにとって守るべき価値のあるものとなっているってことです」
アレンさんがそう言って、にっこり笑う。
「それだけでも――ティアはすでに充分過ぎるほど世界に貢献していますよ」
「っ……」
トクンと心臓が跳ねる。
私は今のままでこの世界の役に立てているの?
「アイツの言うとおりだぞ。オレさまはティアが大好きだ! ティアが作るパンも大好きだぞ! だから、ティアに笑っていてもらうためなら、そしてティアのパンを腹いっぱい食べるためなら、どんなことでもするぞ!」
イフリートが私に甘えるようにすりすりと頭をこすりつける。
「ティアは、ティアのことだけ考えたっていいんだぞ! 国のためとか、誰かのために、ティアが我慢することなんてないんだ! オレさまが望むのは、ティアの幸せなんだからな!」
「イフリート……!」
再びイフリートをギュッと抱き締めると、オンディーヌやグノームが慌てた様子で椅子から降り、駆け寄ってくる。
「あ、アタシだってそう思ってるわよ! アタシもティアが大好きなんだからね! ティアが焼くパンもよ!」
「ボクも、ティアが大事だよ……」
「抱っこは嫌だけど、このパンがもう食べられなくなるのは勘弁かな」
シルフィードもすました様子で、テーブルから飛び降りて傍に来てくれる。
でも、抱っこされるのは本当に嫌なのか、微妙に手の届かないところにお座りする。
その様子に、思わず笑ってしまう。
「ホラ、ね?」
アレンさんが優しく微笑んで、イフリートを抱く私の腕をポンポンと叩く。
「精霊たちをここまで魅了する――。ティアは、そしてティアが焼くパンは、すでにこの国の――いえ、世界の宝だと思いますよ」
「アレンさん……」
「神殿に行く必要なんてありません。ティアが幸せであれば、ティアがやりたいことを思いっきりやっていれば、彼らはこの国を――世界を愛し、守ってくれるでしょう」
精霊たちの望みは、私の幸せ。
私が幸せであれば、巡り巡ってそれが国のため――世界のためになる。
その言葉に、胸が熱くなる。
本当に? それでいいの? それだけでいいの?
私の問いかけるような視線に、みんなが笑顔で頷いてくれる。
それにまた、胸が締めつけられる。
ああ、これほどまでに想ってもらえて――こんなに嬉しいことはないよ!
「この国の――そしてこの世界のためにも、ティアのパン屋のオープンに全力を尽くしましょう。私も手伝います。ただその前に、一度聖都に戻って信頼できる大神官さまにのみ、四精霊の受肉を報告してきます」
「えっ?」
手伝うって……いやいや、そろそろ聖騎士としてのお務めに戻らないといけないでしょう。
私がそう言うと、アレンさんは何を言ってるんだというような顔をして、私の手を取った。
形の良い唇が、私の中指にそっと触れる。
「私の務めは、あなたの傍にあり、あなたを守ることです。ティア――」
ひえっ!




