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4-17

「アレンさん……」


「そんなふうに考えること自体が、聖騎士としては間違っているのかもしれません。国の、神殿のやり方に疑問を持つ聖騎士なんて、許されません。ですが、それでも私は……」


 アレンさんはそこで言葉を切ると、なにやら心を決めた様子で立ち上がった。


「精霊たちに言われたからじゃありません。それだけは誤解しないでください。そもそも、聖女の務めは、毎日聖歌と祈りを捧げ、受肉した精霊たちを聖獣に育て上げることです。必ずしも聖都の神殿に縛りつける必要はないはずですし……。いえ、そうではなく……!」


 そして私の前にやってくると、恭しく膝をついた。


「私は聖騎士として聖女を――ではなく、ただのアレンとしてあなたを守りたいのです。あなたがいたいと願う場所で、あなたが一番やりたいことをしてほしい。私も精霊たちと同じく――」


 そう言って、ふぅっとその双眸を優しくする。


 そして、私の髪をひとすじ手に取り、そっと口づけを落とした。


「あなたのことが大好きだからです。ティア――」


 私をまっすぐに見つめる金色に近い眼差しが、甘やかに煌めく。


 瞬間、心臓がドッとありえない大きな音を立てた。


 なななななに今の! なに今のーっ!


 まままま待って!? そそそそそそれってどういう意味の『好き』ですか――!?


「あ、ありがとう、ご、ございます……?」


 な、なんのお礼だろう? これ……。


 やややや、でも、おおおおおお礼を言う以上に、なななななにを言えばいいのかわかんないし!


 私は真っ赤になってしまった顔を隠すように、慌てて下を向いた。


「で、でも、そんなの許されないんじゃないかって……許されていいのかって思いもあるんです。聖女にはなりたくありません。聖都の神殿で暮らすことになるのも嫌です。私、ここにいたいです。思う存分パンを焼きたい。そしてパン屋をやりたい。私のパンをみんなに食べてもらいたい……。でも、そんな……勝手な我儘で、聖女の役目を放棄していいのかって……」


 シナリオどおり、すでにヒロインが聖女として覚醒していたなら、好き勝手してもいいと思う。悪役令嬢としての役割はきちんと終えているしね。


 でも、バグなのかなんなのか――ヒロインが聖女として覚醒していない現状、精霊の力を借りて国を救うことができるのは私だけだ。


 国にさまざまな異常が起きている以上、なにもしないで気ままに生きていていいのだろうか?


 もちろん――これはアレンさんにも精霊たちにも言えないけれど――悪役令嬢の私がヒロインの立場を奪うような真似をしてもいいのだろうかという問題もある。


 やっぱり思考がグルグルとループしてしまう。


 パンを焼きたい。パン屋を開きたい。私のパンをこの世界に広めたい。


 でも、こうなった以上は聖女としてやれることはやるべきなんじゃないか。国の異常を見て見ぬフリは罪なんじゃないか。国と人々のためにできるかぎりのことはすべきなんじゃないか。


 でも、私は悪役令嬢だ。ヒロインの立場を奪ってはいけないんじゃないか。


 見事な堂々巡り。


「イフリートたちやアレンさんの気持ちは嬉しいです。でも、それに甘えていいのかなって……」


 この国のことを、この世界のことを想えばこそ、どっちつかずのまま思考がループしてしまう。


 どうしたらいいのかわからない――。


 俯く私に、アレンさんが「そうですね……」と唇に指を当てる。


「そもそも、聖女のお役目を放棄していることにはならないのではないでしょうか?」


「え……?」


「先ほども言ったとおり、聖女の務めは毎日聖歌と祈りを捧げ、受肉した精霊たちを聖獣へと育て上げることです。それは本当に、聖都の神殿でなくてはできないのでしょうか? ここでパン屋をやりながらでもできるのでは?」


「ええっ!?」


 えっ!? パ、パン屋と聖女の両立!? そんなことできるの!?


「前例がないので断言はできませんが、おそらくできると思いますよ。なぜなら――現状すでに、あなたは聖女のお役目を半分以上果たせています。ティアのパンも世界を救うものですから」


「はい?」


 私のパンが世界を救う?


「えっと……? それはどういう……」


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