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「えっ!?」
精霊たちが目を見開く。
「そんな!」
「自由がなくなっちゃうの!?」
「でもそれは、聖女が尊き存在だからです。だからこそ、我々は最大限お守りするのです」
「その理屈はわからないでもないけど、それは駄目だ」
シルフィードがムッとした様子で顔をしかめる。
「それって本当に守っているの? 閉じ込めて、都合よく利用しているんじゃなくて?」
「いえ! そんなことは決して!」
アレンさんがとんでもないとばかりに首を横に振る。
「誓って、聖女を悪しきモノからお守りするためです。聖女を害するモノは、魔物や魔獣だけではありませんから」
そう言って、アレンさんが胸に手を当てる。
「悲しいことですが、我々人間の中にも、聖女を害そうとする者――または利用しようとする者は大勢います。我々はすべてのものから聖女を守らねばなりません」
「なるほど?」
「そして大神殿でお暮しいただくことは、聖女の神性を保つ意味でも必要とされています」
「神性を保つ?」
「はい、我ら聖騎士や神官は常に己を律し、不浄を避け、清らかであることを心掛け、そのうえで厳しい修行を重ねてはじめて神聖力を扱えるようになります。ですが、聖女は違います」
前も言ったように、神聖力は、本来なら人間には扱えない――それどころか、知覚することすらできない、神さまや精霊たちの領域の力だ。
だからそれを揮うには、しっかりと知識を入れたうえで厳しい修行に堪え抜かなくてはならない。それだけじゃなくて、常に己を律し、不浄を避け、身も心も清らかであることが求められる。
心に邪なモノが宿るだけで、神聖力を扱えなくなってしまうって聞いたことがあるわ。
だからこそ、神官さまも聖騎士さまも、神官であるということが、聖騎士であるこということが、心身ともに清く正しく強い――信頼に値する方である証明なんだって。
対して聖女は、彼らがそれだけ努力に努力を重ねることでようやく扱えるようになる神聖力を、精霊と心を通わせるという方法で自在に操れるようになる。
つまり、日常生活における様々な制約・節制も厳しい修行もすることなく、神官や聖騎士以上の力を手にするのよ。
「いわば、精霊と心通わせることができただけの、普通の女の子なんです。いえ、もしかしたら、普通ではないのかもしれません。精霊は自然そのもの。その精霊に慕われるということは、聖女はこの世界そのものに愛されるも同然です。普通の女の子よりも無垢で、純真で、清らかで心優しい女の子かもしれません。その女の子に、ある日突然、世界が傅くのです」
ある日突然、自身が世界の中心となる――。
「魔物や魔獣、悪意や野心を持つ人間だけじゃありません。己の中にある傲り、慢心、欲望、野心、そういったものすべてが聖女の清らかな心を穢す敵です。我々は、聖女の御身だけではなく御心もお守りするのです。聖女が傲り昂ることがないよう、欲望のままに振る舞うことがないよう、邪な野心を抱くことがないように――」
「なんでだ?」
イフリートが理解できないとばかりに顔をしかめる。
「え……? なぜ、とは……?」
「なんで傲りたかぶっちゃいけないんだ? 欲望のままに振る舞っちゃいけないんだ? 邪な野心を抱いちゃいけないんだ?」
「え……? ですからそれは……精霊たちの加護を失ってしまう可能性が……」
意外な反応だったのか、戸惑うアレンさんにイフリートが視線を鋭くする。
「まぁ、そうだな。心の汚いヤツと友達なんてやってられないぞ!」
「そうでしょう? ですから――」
「でも、聖女がオレさまたちに嫌われたからって、そんなことお前たちには関係ないはずだろ? 違うか?」
「……! それは……」
「聖女が精霊に嫌われて困るのは、お前たちが聖女を利用してるからだろ?」
イフリートがドンと床を踏み鳴らし、鋭い牙を剥き出して叫ぶ。
「ずっと聖女の力を使いたいから、聖女が精霊に嫌われたら困る。そうだろ? お守りするのは、聖女のためなんかじゃない! 自分たちのためだ!」




