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二人が目を丸くする。
「コレ、コレ、アマジョッパイだ!」
「そう!」
これが私的、キング・オブ・甘じょっぱい!
「ナゴンの甘さは……なんでしょう? 上品なのにしっかりと強くて、バターのコクにも塩味にもパンの風味にも負けてない! これが餡! こんな甘味は、ほかに存在しません!」
アレンさんも興奮気味に私を見る。
「おいしいです! 本当においしい!」
アレンさんもイフリートも、あんバタートーストをペロリとたいらげてしまって、あんバターに手を伸ばす。
「あんバターのほうもうみゃい! こっちはバターが濃いぞ!」
うみゃぁあぁあっと歓声を上げるイフリートの横で、アレンさんもさらに目を丸くする。
「な、なんですか? これ。板状にカットされたバターですよ? バターを直接かじっているのにその塩味とコクに負けない甘さと風味って……すごい!」
そちらも瞬く間に完食。おお! 本当に気に入ってくれたみたい!
「見た目は泥ですが、これは売れます……! 売れないわけがない!」
アレンさんはそう言って、ホーローの容器に入った餡子を見つめた。
「この見た目も、おいしさを知ってしまえば、あまり問題にはならないと思います」
「食べてもらえさえすれば……ってことですね」
「ええ。おそらく、その『一度食べてもらう』のが一番難しいんじゃないでしょうか。どうしても、最初は見た目で忌避してしまうと思うので」
アレンさんが私に視線を戻して、にっこり笑う。
「でも、その一度目を突破すれば、絶対にファンがつく味だと思います」
「よかった! そう言っていただけると、自信になります」
イフリートがあんぱんを一口食べて、ぶんぶんと尻尾を振る。
「あんぱんもうみゃいな! でも、オレさまはバターがあるほうが好きだな! アンコだけだと、ちょっとさみしい!」
「そっか。あ! 餡子にクリームを合わせる食べ方もあるんだけど、試してみる?」
「クリーム? クリームパンのクリームか?」
「それとは別だけど、同じく甘ぁいクリームだよ。つけてみる?」
もちろん、生クリームも用意してありますとも! 餡子×生クリームもおいしいよねっ!
イフリートの食べかけのあんぱんの中に、生クリームたっぷり注入してあげる。
イフリートはそれにかぶりついて――ボフッと尻尾を膨らませた。
「うみゃぁあぁあっ! コレ、好きだ! 一番好きっ!」
「そうだよね。イフリート、甘いもの大好きだもんね」
「うん! 好きだぞ! ティア、もっとくれ!」
「あの、僕にもください」
「ええ、もちろん」
アレンさんの割ったあんぱんにもクリームをたっぷりとのせてあげる。ついでに自分のにも。
ああ! 幸せっ! 餡子万歳! ナゴン万歳! あんぱん・あんバタ・あんクリーム万歳っ!
久々の餡子を堪能し尽くしていた――そのときだった。
『い、いいなぁ~……ボクもほしい……』
『ねぇ、それ、アタシにもくれない?』
どこからともなく声がする。私はキョロキョロとあたりを見回した。
「どうしました?」
「え? あの……声が……」
「声?」
「――やっときたのかよ、お前ら」
あんぱんをもぐもぐしながら、イフリートが宙を見つめる。――えっ!? も、もしかして!?
慌ててイフリートの視線を追うと、ポンポンポンと三匹の猫が現れた。
「ええっ!?」
一匹目は、マンチカンとスコティッシュフォールドを足して二で割ったような――手足が短くて、まんまる顔で、ふにゃっと折れた耳をしたもちもち体形の子。柄としてはハチワレさんなんだけど、毛並みの色はなんと茶色と緑――チョコミントカラー! 瞳の色は綺麗な琥珀色。




