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あ! そういえば、デミトナ辺境伯領に行く前に、急ぎアシェンフォード公爵家にトースターの開発について手紙を送ったんだけど――さすがね。帰ってきたときにはすでに返事が届いていたわ。
ちなみに送りつけた手紙は、『アシェンフォード家の財力やコネをフルに使ってなにがなんでもトースターを開発・商品化してくれなきゃ、あと十年は家に帰ってあげないから!』というもの。
もちろん、トースターがどんなものかという詳細説明もしっかりと書いておいた。
そして、お兄さまから届いた返事は、『つまり、パンやチーズの表面を熱で炙って香ばしく焼く魔道具だね? それならなんとかなると思うよ。石釜オーブンより、基本構造は単純だろうしね。一週間程度で試作品を作り上げてみせるから、一ヵ月以内に僕とお茶する時間を作ってほしいな。ティアが足りなくて死にそうなんだよ……』とのこと。――え? この前会ったばかりじゃない。もう妹成分足りなくなったの? シスコンって大変ね。
っていうか、一週間? どんな無茶をするつもりなんだろう……。
本当に一週間で試作品を完成させてくれるなら、それはご褒美をあげないわけにはいかないし、お茶するぐらいはしてあげよう。
そして、昨日は朝からナゴンで餡子づくり。
まずはナゴンを優しく洗って、たっぷりのお水で加熱。十分ほど煮たら、火を止めて三十分ほど蒸らす。そうしたら一旦ザルにあけて、お水でサッと洗う。これが渋切りというアク抜き作業。
それが終わったら、再び鍋にナゴンとお水を入れて一時間ほど加熱。噴きこぼれたりしないよう、ときどき差し水をするのを忘れずに。
ナゴンが指で簡単に潰せる柔らかさになったら、火を止めて四十分ほど蒸らし。
その後、再び中火で加熱開始。ここで砂糖を数回に分けて入れるの。
ふつふつと煮立ってきたら弱火にし、こげないように細心の注意を払いながらゆっくり混ぜる。
最後に少し塩を加えて味を引き締めたらできあがり。
粗熱を取ったあと、しっかりと冷やしたものがこちらの餡子です!
「豆を甘く煮た……見た目泥……」
よほど抵抗があるのか、アレンさんの眉間のしわは深い。
いや、アレンさんだけじゃない。おそらく最初はみんなこんな反応だと思う。
「さて、いい感じに冷めたかな~」
ベーカリーラックのパンを確認する。中心に小さなつぶつぶ――ケシの実が乗ったつやつやした丸いパンたち。うーん! おいしそうっ!
「うん、いい感じ!」
じゃあ、あとは!
私は同じくベーカリーラックに並ぶ――今朝焼いたばかりの食パンとプチバゲットを手に取った。
まずはプチバゲット。こちらには切り込みを入れて、たっぷりの餡子とカットしたバターを挟む。 そして食パンはぶ厚めにカットして、フライパンでバターをしっかりと染み込ませたトーストに。最後にこちらにも餡子をたっぷりと乗せる。
「さぁ! できましたよ! あんぱんに、あんバターに、あんバタートーストです!」
それらをアレンさんとイフリートの前に並べる。もちろん私の分も作ったよ。食べたいもん!
「これ……本当にうみゃいのか……?」
「……あんぱんは中身が見えませんが……あとは完全にパンに泥がついてるように見えます……。それに、挟んであるバターの量……。完全に生のバターをかじる感じなんですが……」
イフリートとアレンさんは若干引き気味。
でも私は二人が口をつけるのを待ってられなくて、さっそくあんバタートーストにかぶりついた。
「っ……!」
じゅわっと口の中に広がるバターのコク、そして塩味。それに負けない餡子の風味と強い甘み。そして、その二つをしっかりと受け止め、まとめ上げる香ばしい小麦の風味と優しい甘み。
「ん~~~~っ! これこれっ! これが食べたかったのっ!」
お、おいしい~!
いや、本当に上出来も上出来! いまだかつて餡子をこんなにおいしく炊けたことあったっけ? ナゴンの質の良さがダイレクトに出てる! さすが最高級小豆――大納言さまっ!
「…………」
アレンさんとイフリートが顔を見合わせる。
そして二人は――一人と一匹はあんバタートーストを手に取ると、おそるおそる口に運んだ。
「――ッ!」
「な、なんだ!? コレ、うみゃいぞ!」




