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みなさんが目を丸くし、顔を見合わせる。
「そりゃ、陛下が正しいだろ。女を囲うのは私用以外のなにものでもねぇよなぁ?」
「兵士の気持ちもわからんではないけどなぁ。実際、王太子殿下に命令されたら断れねぇよな」
「だから、これは王太子殿下がなに考えてんだって話だろ。女を囲うのに王宮の兵士を使うなよ。せめて私兵を使えよ」
「…………」
――正論すぎて、ぐうの音も出ない。
「それで、兵士たちはそのあと、陛下が殿下にどれだけ失望してるかって話を延々してたらしい。継承権を取り上げてもおかしくないレベルだって」
その言葉に、食堂にいた全員が息を呑む。
もちろん、私も。
先日、王太子殿下が焦っているのではないかという話は聞いた。
私との婚約破棄によって、アシェンフォード公爵家という強大な後ろ盾を失っただけではない。精霊と心を通わせられるヒロインが聖女として覚醒すれば、神殿というアシェンフォード公爵家以上の後ろ盾を手に入れたうえでヒロインと一緒になって幸せになれるはずだったのに、いまだにその兆しが見えないから。
こんなはずじゃなかったって――。
でも、継承権を取り上げられるかもしれないレベルの話にまでなっているなんて、聞いてない。
そもそも、殿下がヒロインに入れあげているのを、陛下が不快に思ってらっしゃるっていうのも、初耳だ。
それが本当だとしたら――。
「っ……」
思わず膝の上で拳を握る。
現段階では、あくまで噂だ。誰かから聞いたってだけの話。真偽のほどは定かじゃない。
でも、真偽がどうあれ、こんな辺境の地にまでそんな噂が届いているというのは問題だ。
殿下に近しい貴族たちの間だけではなく、民にまでこんな話が広がっているなんて……。
それは、民が少なからず王太子殿下に不信感を持っている表れでもあるから。
「おい、まさか……」
「さすがにそれはねぇだろう」
「俺もそう思うけど、少なくともその兵士たちはそう感じてるみたいで、不興を買ってもいいから殿下とは距離を置いたほうがいいんじゃないかって話してたって……」
「王宮勤めの兵士がそこまで言うなら、実際に陛下が殿下を公務から遠ざけている状況もありえるのか?」
「とはいえ、王位継承者だぞ? 国のことをなにもしなくていいってわけにはいかないだろう?」
「ってことは、本当に継承権を剥奪するつもりなのか? だから、遠ざけてるってことか?」
「でも、じゃあほかに誰がいるんだよ? 王弟殿下か?」
「だけど、年齢は陛下の二つ下だぜ? 王位を継承するころには、王弟殿下も高齢でいらっしゃるはずだろ?」
「それはそうだけどよ、実際問題、女に夢中になって道理を見失ってる人間に国が治められるか? できねぇだろうよ」
みなさんが、はぁーっとため息をつく。
「国を治めていくべき立場の人間が、責務を忘れて恋愛にかまけているなんてなぁ……」
「本当だよなぁ……」
食堂内の空気がどんよりしてゆく。
な、なんか……食事を楽しむって雰囲気じゃなくなっちゃったな……。
「……なにをやってるんだ。アイツは……」
フォークでガレットをつついていると、隣でアレンさんが小さくため息をつく。
思わず目を丸くする。
なんか――なんだろう? あまりにも呟きが自然だったような……? まるで、普段から殿下を『アイツ』呼ばわりできる間柄かのような……。
いや、そんな……まさか、ね?
「殿下が一番悪いのは間違いねぇけど、その女も女で大概だと思わねぇか?」
「だよなぁ? 普通、国のトップに立つべき男が、自分のせいで道理から外れた行いをしてたら、気にするもんだよな? なんとかしようと思うもんじゃねぇか?」




