3-14
聖騎士とは、さっきも言ったように、常に己を律し、不浄を退け、清らかであることを心掛け、そのうえで厳しい修行を重ねて、神聖力を扱う力を手にした方々だ。
魔法だって、魔力を持ってさえいれば誰にでも使える――なんて、簡単なものじゃない。
魔法には複雑な手順や制約がつきもの。しっかり勉強して魔法についての知識を習得したうえで、鍛錬に鍛錬を重ねて魔力というエネルギー源を正しく魔法という奇跡に変換する術を――そしてそれを自在にコントロールする力を身に着けて、はじめて使えるものだ。
つまりね? 一つを自在に扱えるようになるだけでもすごく大変なことなのよ。神聖力も魔力も両方使うだなんて――そりゃ、理論上は不可能ではないんだろうけど、実際問題それを可能にした人物なんて聞いたことがない。
魔法――魔力を使う人は神聖力を使えない。反対に、神聖力を使う人は魔法を使えない。
それが当たり前だ。
だから、聖騎士が遠征される際の移動はポータルを使ったり、神殿所属の魔法士を同行させたり、あとは馬や騎獣に乗ってゆくのが普通だ。聖騎士自身が転移の魔法を使うなんて、たしかに聞いたことがない。
そうだ……。あまりにもサラッと魔力がどうだとか、聖都まで飛ぶとか言ってらっしゃったから気がつかなかったけれど、よく考えたらものすごく変なことだわ。
アレンさんっていったい……。
「ギャァァオォォオ!」
アレンさんが手から放った金色の光に焼かれて、魔獣が塵になる。
その背中に飛び掛かってきた魔獣を剣で一刀両断し、もう片方の手で最後に残った魔獣を指差す。
瞬間、鋭い風が矢のようにそれを襲う。風の刃に切り刻まれて、魔獣はこと切れた。
「…………」
す、すごい……!
神聖力と剣技と魔法の鮮やかすぎる連携で、あっという間に七体の魔獣を倒してしまった……。
アレンさんの強さを目の当たりにして――あらためて思う。
このアレンさんが行き倒れるまで疲弊した任務って、いったいどんな過酷なものだったんだろう?
ヒロインが聖女として覚醒していないことといい、魔物による被害がそこまで深刻になっていることといい、悪役令嬢がイフリートを受肉させてしまったことといい――そして、過去に魔獣の目撃情報すらなかった場所に、あんな魔獣が現れたことといい、本当になにが起きているの?
アレンさんが剣を消し、転がっている魔獣の死体たちに手をかざす。
眩い金の光が死体を――飛び散った血までもを塵にして消し去り、地を浄化する。
「――終わりましたよ」
アレンさんが戻ってきて、にっこりと笑う。
いつもと変わらない――優しくて、穏やかで、息を呑むほど綺麗な笑顔に、きゅうっと胸が締めつけられる。
「け、怪我はありませんか?」
「ええ、ありません。ティアは大丈夫ですか?」
「わ、私はなにも……。アレンさんが守ってくださったので……。イ、イフリートも傍にいてくれましたし……」
私はイフリートを抱く腕に力を込めて、唇を噛んだ。
「で、でも……怖かった……です……」
まだ震えが止まらない。
「ア……アレンさんが、怪我をしたらどうしようって……!」
意外な言葉だったのだろうか? アレンさんが目を丸くする。
「わ、私……魔獣のことには詳しくないですし……。アレンさんの強さも、知らなかったので……す、すごく……怖かったです……!」
「ティア……」
「ま、守ってくださるのはとても嬉しいです……。ありがとうございます……。で、でも、それと同じぐらい、ご自身も大切にしてください……。お願いします……」
一人で片づけるなんて言わないで。勝算があったのだとしても、嫌だ。
イフリートを頼ってくれてよかったの。ナゴンなんてまた探せばいいんだから。
「ティア……」
私の言葉に、アレンさんがなぜだか頬を染める。
「私の心配など不要ですと言いたいところですが――約束しましょう」




