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3-13

 思わず悲鳴を上げてしまいそうになって、私はおじさんと同じように両手で口を塞いだ。


 ゲームをプレイする中で、魔獣は――いえ、魔獣どころかもっと強大な魔物も数え切れないほど見たわ。でも、実際に目の当たりにするのははじめて。なんて、なんて禍々しい姿なのっ……!


 全身がガタガタと震え出す。


 あ、あんなのが七体もいるなんて!


「あ……あぁ……」


 おじさんがもうだめだという顔をして、へなへなとその場に崩れ落ちる。

 けれど、さすがは聖騎士――アレンさんは一切動じる様子もないどころか、微笑みさえ浮かべてヒュンと剣を振った。


「そうですね、燃やしてしまうのはちょっと……。七体なら問題ありません。私一人で片づけます。イフリー……いえ、あなたは、ティアの傍に」


「おう、大丈夫か?」


「ええ、お任せを」


 二人のやり取りにギョッとして、私は慌ててアレンさんの服を引っ張った。


「あ、アレンさん! 一人でって!」


 あんなのを一人で相手するなんて、危険すぎる! ダメですよ!


 唸り声がさらに大きくなり、一匹、また一匹と、魔獣が木々の間から出てくる。


「ひっ……!」


「大丈夫ですよ、すぐに終わります」


 アレンさんが私を見つめて、穏やかに言う。

 そして、やんわりと私の手を袖から外すと、にっこりと笑った。


「イフリートを抱っこしていてください」


「あ、アレンさ……」


「ご安心を。あの程度に後れを取る私ではありません」


 それだけ言って、アレンさんが魔獣に向かって駆け出す。


「ティア、オレさまを抱っこしてろ~」


 イフリートが後ろ足で立ち上がって、前足で可愛くおねだりする。

 私は唇を噛み締めて、イフリートを抱っこした。


「だ、大丈夫だよね?」


「ダメだったら、オレさまが片づけてやるから大丈夫だぞ」


 だ、ダメだったなんてことがあっちゃダメなんだけど!? それって、アレンさんが大怪我したか、死んだかしたらの話をしてない!?


「い、イフリート! ダメだったらって……なにかあってからじゃ遅いの! ナゴンはまた探せばいいから、アレンさんに加勢してくれない?」


「そうしてもいいけど……でも大丈夫だぞ。アイツ、持ってるの神聖力だけじゃないからな」


「え……?」


 神聖力だけじゃ――ない?


 その言葉に目を丸くした瞬間、ギャオォオオオッとこの世のものとは思えない悲鳴が響き渡る。

 私はビクッと身を弾かせて、慌ててアレンさんのほうを見た。


 黒い血を撒き散らしながら、魔獣がドッと地面に倒れる。それだけじゃない。私がイフリートを抱っこしている間に、すでに二匹が息の根を止められていた。


「え? す、すご……!」


「なにもすごくない。当然だぞ。アイツ、魔力も相当なものだからな」


「そうなの? でも、聖騎士さまって神聖力で戦うものよね? 魔物にはそれが一番有効だから」


「そうだぞ。魔物の弱点は聖なる力だからな」


 そう――。聖騎士は神聖力を扱う技を磨きに磨き抜いた存在だ。神聖力で魔物退治し、穢された地を浄化することがお仕事だから。


「あ……!」


 今、気づいたけれど、そういえばはじめて会ったときからアレンさんは変なこと言ってた。


 転移は魔法だ。つまり、魔力を使って起こす奇跡。


 魔力は、人が身体の内側に持つ力。


 対して、神聖力は人が持たないモノ――自然界に溢れる力のこと。

 本来なら人間には扱えない――それどころか、普通の人間には知覚することすらできないもの。


 同じ奇跡を起こす力でも、この二つは根本的に違うものなの。


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