表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/167

3-12

 私はその場に膝をつき、ナゴンのさやに触れた。


「ナゴンってシーズンがありますよね? 今の時期しか採れないなら……」


 ここにある分をすべて採ったとしても、一年分って考えたら全然足りない。毎回ここまで採りに来るのも大変だから、栽培するってなるとさらに量が必要になる。


 さて、どうするか――考え込んだ私に、おじさんが「いーや」と首を横に振る。


「ナゴンは一年中採れますよ」


「ええっ!?」


 たしかに、この世界は常春に近いというか――冬以外はあんまり寒暖差がないけれど、それでも植物はきちんと四季を守ってたり、魚介類にも旬があったりするから、ナゴンも小豆と同じように種まきの時期や収穫の時期があるんだと思ってた! 一年中!?


 こ、こんな最高級大納言が一年中手に入るなんて最高すぎるんですが!?


「じゃあ、とりあえず栽培に成功するまでは、現地の方々に採取してもらってそれを買い取る形でなんとか……」


 頭の中でそろばんをはじき出した――そのときだった。


「ティア!」


 鋭い声とともに、イフリートが姿を現す。

 と同時に、アレンさんが腰のナイフに手をやり、身構えた。


「え? な、なに……?」


「ひ! な、なんですか!? その赤いのは!」


 驚く私の横で、おじさんもまたイフリートを見て悲鳴を上げる。


「ま、ま、魔物……! 魔獣なのでは!?」


「はぁ!? オレさまが魔獣!?」


 イフリートがムッとした様子でおじさんをにらむ。


「静かに。――大丈夫です。彼は、我らを守ってくださる存在です」


 ある一点を見つめたまま、密やかな――だけど厳しい声で言って、アレンさんが何もない空間に手を掲げる。


 その手の上に、銀色に光り輝く美しい剣が現れた。


 この世界に、その剣を知らぬ者はいない。


「あ、あなたは、聖騎士さまだったのですか!?」


「ええ、聖騎士として嘘偽りでないことを誓いますから――静かに。ヤツらを刺激しないように」


 ヤツらって……。


 その言葉に息を呑んだ瞬間、木々の向こうからグルルルッと獣の唸り声のようなものが聞こえる。

 おじさんはビクッと身を震わせ、両手で口を塞いだ。


「獣、ですか……?」


 ごくごく小さな声で尋ねると、イフリートが聞いたこともない厳しい声で「違う」と答える。


「魔物――魔獣だ」


 魔物とは魔の性質を持つバケモノの総称。その中で、私たちがよく知る獣の形をしているものを魔獣と呼ぶ。魔物の中には知性を持ったものも存在するけれど、魔獣は魔性――魔の性質を持っているだけで、野生の獣と変わらず本能に従って行動するもの。基本的に人間のような知性は持たず、意思疎通をはかることはほぼ不可能とされている。


「ど、どうして……? ここは、魔物が出るような地域じゃないって……」


「そのはずです。魔物による事件があったなんて、聞いたことがありません。討伐要請はもちろん、魔物を目撃したという報告すら上がったことはないはずです」


 おじさんを見ると、彼も両手で口を塞いだまま首を縦に振る。


「そもそも、そんなことが一度でもあったのなら、ここにあなたを連れてきていませんよ」


「それなら……どうして……」


 グルルルルッという唸り声が、どんどん近づいてくる。


「足音は五……いや、七か?」


 ブツブツと呟くアレンさんの横に、イフリートが並ぶ。


「ああ、全部で七匹だな。オレさまならすぐに片づけられるけど……このあたりを焼いちゃうのはマズいよな?」


 イフリートがそう言うと同時に、木々の間から闇色の身体をした大きな狼が姿を現わした。


 瞳は緋色。牙は口の中に収まり切っておらず剥き出して、絶えずダラダラと涎を垂らしている。その体躯は、普通の狼のゆうに三倍はあるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ