3-11
「大丈夫ですか? その先にはあるはずです。このあたりまで入ってくる人は少ないので」
先を歩く案内人のおじさんが振り返って、微笑む。
「そう願います……」
実は、朝からおじさんがナゴンが生えているポイントを案内してくれてるんだけど、もうすでに二ヵ所振られているのよね。
枯れて黒くなった豆のさやはたくさん地面に落ちていたから、デタラメを言ってるわけじゃなく、おじさんの言うとおり、普段はそこにあるんだろう。今回ろくに見当たらなかったのは、少し前に誰かが摘んでしまっただけだと思う。
「少し休みますか?」
アレンさんが心配そうに私を見る。私は首を横に振った。
すでにお昼過ぎ。道らしい道のない森を歩き続けているから、かなり体力を削られているけれど、だからこそ今度座ったらもう立ち上がれなくなっちゃう気がする。お昼にお弁当を食べたときも、再び動き出すのに苦労したもの。
アレンさんやおじさん――姿を消しているイフリートには、お弁当の玉子サンドやハムサンドがすごく力になったみたいだったけど、私は実はその時点で疲れ切っていたから、サンドウィッチも半ば無理やり詰め込んだところがあって回復するどころか気持ち悪くなっちゃってたぐらいだし、今にいたっては――もはやライフはゼロを通り越してマイナス。気力だけでっていうか、小豆への渇望だけで動いてる感じだもの。
「あと少しみたいですし、大丈夫ですよ」
「それならいいですが……。無理はしないでくださいね?」
「オレさまが乗せてやろうか?」
どこからか、イフリートの声がする。私は慌てて頭を振った。
「あ、ありがとう。気持ちだけ受け取っておく」
姿を隠したままそれをやったら、おじさんの目にどう映るか……考えるだけで恐ろしい。
「ああ、ありましたよ!」
先にいるおじさんが、ホッとしたような声を上げる。
私は息を呑んで、おじさんのもとに急いだ。
「ほ、本当ですか?」
「ええ、あれです」
おじさんが指差した方向を見て、私は目を見開いた。
成長途中で折れてしまったのだろう。私の背丈ぐらいある植物が折り重なって藪と化していた。
畑で栽培しているわけじゃないから当然と言えば当然なんだけど、あまりに雑然としすぎていて、一瞬「え? これが?」と思ってしまったけれど、その植物にはたしかに茶色くなった豆のさやが無数にぶら下がっていた。
駆け寄って、さやの一つをちぎって豆を取り出してみる。
「っ……!」
赤褐色の見慣れた豆――間違いない! 小豆だ!
思わず身を震わせ、空に両手を突き上げてガッツポーズ。
「やったぁーっ! あったぁーっ!」
「探していたものですか?」
「はい! そうですっ! これが欲しかったんですっ! きゃーっ! やったぁっ!」
思わず、アレンさんを抱き締めてしまう。
「っ……ティ、ティア……!」
「アレンさんのおかげです! ありがとうございますっ!」
「お、お役に立てたようで、よかったです……!」
大喜びする私と顔を真っ赤にしてあわあわしているアレンさんに、おじさんが心底不思議そうに首を傾げる。
「こんななんの価値もない豆が、そんなにほしかったんだねぇ……」
価値がないなんてとんでもない!
「色も形もいいし艶もあって、なにより大粒! まるで最高級の大納言みたいじゃ……あぁっ!?」
ナゴンって名前はそういうこと!?
「たしかに、小豆よりもナゴンのほうが異世界感あるよね」
「はい? イセカイ、とは?」
あ、気にしないでください。こっちの話です。




