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3-9

 それを瓶に詰めて、バゲットと食パン、ハム、自家製ピクルス、自家製ジャムやバターとともにバスケットに入れたら、よし! 準備完了!


「お待たせしました!」


「おう!」


 イフリートがぴょんと椅子から飛び降りて、私の足にふわりとすり寄る。


 アレンさんも、年ごろの娘なら一発で天に召されてしまいそうな優しく美しい笑みを浮かべて、私の前に手を差し出した。


「では、参りましょうか」





          ◇*◇





「は~着いた~!」


 あのあと――家から一番近い町へ行って、乗合馬車でポータルが設置してあるアシェンフォード公爵領で一番大きな街の神殿へ。そこでアレンさんが話を通して(私のことは話さない約束だから、聖騎士の任務ってことにして。ちなみに私のことは、アレンさんが用意した神官のフードマントを被って顔と身体を隠して従者ってことに)ポータルを使用、本当に一瞬でアズール地方のデミトナ辺境伯領にたどり着いた。ポータルってすごい! 便利!


 あの身体を包む光と浮遊感は、さすがファンタジーの世界って感じがしたわ。


 アズール地方は、王都や西側のアシェンフォード公爵領とは街並みや建物、人々の服装の感じがかなり違ってて、私たちの世界でいうブルガリアやセルビアな感じ? ブルガリアの民族衣装ってものすごく可愛いよね! 思わず道行く人をまじまじと見つめちゃったよ。


 ポータルはどの神殿にもあるわけじゃなくて、領地につき一つか二つ。だから、だいたい領内で一番大きな神殿にあるもの。ナゴンが自生しているのは山とか森らしいから、まずはアレンさんが聖騎士服を着替えるべく服を調達がてら聞き込みをして、ナゴンが飲まれている地域を特定。


 そして、乗合馬車にゆらゆら揺られること数時間――アシェトという名ののどかな村に到着。


 もちろんすでにとっぷりと日が暮れていたので、御者に教えてもらったその村唯一の宿屋へ行き、今やっと部屋に落ち着いたところだ。


 ちなみに移動中、イフリートは身体を見えないようにして、そして極力しゃべらないようにして、私たちについてきていた。受肉しても、姿を消すことはできるんだって。


 木製のベッドが二つあるだけの小さな部屋だけど、掃除は隅々まで行き届いていて清潔感がある。木の清々しい香りがとても落ち着く。


「……あの、大丈夫ですか?」


 アレンさんが部屋の隅に荷物を置きながら、少し心配そうに言う。


「え? 何がですか?」


「ええと……貴族令嬢が利用するような宿ではないと思うので……」


「あ、そういうのは大丈夫です。修道院暮らしをしていたぐらいですし」


 そもそも中身は貴族どころか社畜だしね。安いだけが取り柄の古いビジネスホテルや女性OKのカプセルホテル、ドミトリータイプのホテルにも慣れてるもの。ひどいときはネットカフェ宿泊もあったぐらいだし。だからむしろここはかなりいいほうよ。お日さまの香りがするシーツで手足を伸ばして眠れるだけで、どれだけありがたいか。


「では、私は外で見張りをしていますからゆっくり休んでください」


「えっ!?」


 私はびっくりして、出て行こうとするアレンさんを引き留めた。


「ちょ、ちょっと待ってください! なぜ出て行く必要が?」


「ですから見張りを……」


「いえ、この部屋、鍵がかかるじゃないですか。それにこのあたりの治安はかなりいいって聞きましたよ? な~んにもない田舎だからこそ、村のみんな家族みたいな感じだって……」


 そのうえ、私はごく普通~の格好をしているもの。私が元・公爵令嬢だなんて誰も思わないはず。


 村民みんなが家族みたいなところで、お金を持っているとも思えない私を襲って、なんの得が? 村八分願望でもあるならともかく。


「見張りなんて必要ないでしょう?」


「いえ、しかし……あなたは聖女の資格を有しているわけで……」


「百歩譲ってそうだとしても、村の人たちはそれを知らないじゃないですか」


「いや、それは……そうなんですが……」


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