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「はい、リピート・アフター・ミー。『甘じょっぱいは正義』!」
「アマジョッパイは正義!」
イフリートが私に倣って前足を振り上げて宣言する。いや、可愛すぎでしょ。
「いいな! アマジョッパイ! アンバタってヤツも、ショコラバターってヤツも食べたいぞ!」
「イフリートもそう思う? じゃあ、やっぱり小豆を見つけないと!」
決意を新たにする私に、ハニーバタートーストを完食したアレンさんが尋ねる。
「そのアズキですが、どんな豆なんですか?」
「生っている様子はいんげん豆にとてもよく似ています。違いは、大きさですね。豆のさやも粒もいんげん豆よりもかなり小さいですね。粒はえんどう豆と同じか、それより小さい場合もあります。粒の色は赤銅色です。赤インゲンによく似た色ですね」
「赤インゲンによく似た色の小さい豆……」
「あ、食用として流通している豆はほとんど調べたので、おそらく……」
「はい?」
私の言葉に、アレンさんがポカンとする。
「食用として流通している豆はほとんど調べたって……ものすごい数だと思うんですが……」
「はい、ものすごい数でした」
しかも、少しでも似ている豆はすべて餡にして試食していたから、尋常じゃなくたいへんだった。うっかり餡が嫌いになりかけたもの。
「でも私、やるならとことんって性格なので」
ヲタ活でもそう。私は好きになったらとことん調べて、調べ尽くして、お金も時間もつぎ込んで追いかけ倒すタイプ。
たとえば、『エリュシオン・アリス』だったら、最初に発売された『エリュシオン・アリス』をプレイして激ハマりし、攻略本を購入してさらに隅々までやり込んだ。それこそ悪役令嬢アヴァリティアの台詞まですべて覚える勢いで。ポータブルゲーム機に移植された際も、シナリオは同じとわかっていても、追加ボイスとスチルのためにまた購入して、また何十周とやり込んだわ。
ノベライズ、コミカライズもすべて購入。ボロボロになるまで読み込んだわ。だけじゃなくて、どんなに小さくても『エリュシオン・アリス』の記事が掲載されているアニメ雑誌やゲーム雑誌は必ず買って、その記事をスクラップ。
キャラCDやドラマCDも台詞を一言一句覚えるレベルで聞き倒す。グッズは推しにかんしてはほぼ網羅するし、推し以外にも限界までお金をつぎ込む。
貧乏社畜だったのに? って思ったよね? 違うの、だから貧乏だったのよ。
うちの会社の給料は金額だけ見たら普通レベル。ブラックと言われた理由は、その金額に対して拘束時間や要求の過酷さなんかがまったく釣り合っていなかったからなの。つまり、同業の普通の会社なら週休二日、一日八時間勤務で得られる給料で、私たちは月休二~三日、一日十二時間以上勤務をしてたってこと。
話を戻すけど、つぎ込んだのはお金だけじゃない。時間もだ。
たとえばキャラを演じた声優さん、キャラデザやスチル原画を担当したイラストレーターさんや、OPやEDを歌ったアーティストさん、もしわかるならシナリオ担当されたライターさんのHPやSNSまで日々チェックし、『エリュシオン・アリス』の情報は決して逃さないようにするとか、コラボカフェやイベントにはあまり行けないから(そこは社畜、休ませてもらえないからね……)行った人たちがブログやSNSに上げたレビューを漁り倒すとか。
ブラック会社で社畜やってて、そんな時間どこにあったんだって思うだろうけれど、そこはそれ。睡眠を削れば、時間って結構できるもんなのよ。睡眠時間を半分にするだけで、一日三~四時間の自由時間ができるじゃない。
え? そんなこと続けたら身体を壊しちゃうって? あ、うん。そのとおりだと思う。だから私、今、こんなことになってるんだと思うよ。
自分が死んだかどうかすらわからないって相当ヤバいよね。よい子は真似しちゃいけませんよ。
パンについても同じ。とにかく調べるのよ、私って。パンに使う食材はもちろんのこと、パンの歴史にまで詳しかったのはそのせい。
この世界に来てもその性質を遺憾なく発揮していて、小豆にかんしては本当に、本当に、本当に探しに探しに探し尽くしているのよね。
だからこそ、自信を持って断言できる。広く流通している豆に、小豆に近いものはないって。
「なので、見つかるとしたら、おそらく消費されているのがかなり局地的なものか、あるいは広く流通しているけれど食用として扱われていないもののなかからだと思うのですが……」




