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3-3

「それがアズキ……」


「はい」


 アレンさんが難しい顔をして、唇に人差し指を当てる。


「アズキ……。魔物討伐で国中飛び回っていますが、聞いたことがないですね……」


 うっ……で、でしょうねぇ……。だって、私もめちゃくちゃ調べましたもん。


 現在、ヨーロッパの国々で小豆がなんて呼ばれているかと言うと、ほとんどの国で実はそのまま『azuki』なのよね。国によっては『赤い豆』って意味の別の言葉を当てられてることもあるんだけど、売り場で小豆を探すとパッケージには『azuki』って書かれていることがほとんど。

 そして、その小豆がヨーロッパの国々でも手に入るようになったのって、つい最近の話なのよね。日本文化や日本食がヨーロッパに受け入れられるようになってから。

 その前はというと、第一次世界大戦あたりで日本がヨーロッパに小豆を輸出したらしいんだけど、それはほとんど受け入れられなかったみたい。小豆は普通の煮込み料理やスープには向かないから。


 つまり十九世紀半ばのヨーロッパにはなかったのよ! 小豆は!


 ダメもとで調べてみたけど、この世界にもやっぱりない!


 だったら、白あんは白いんげん豆や同じいんげん豆属の白花豆から作られるから、いんげん豆で近いのが作れるかもしれないって思って、この世界に存在するいんげん豆を調べに調べ尽くして、片っ端から試しまくったわ。でも、どれもダメだった。黒いんげん豆が一番見た目が近かったけど、味はほぼほぼ白あん。やっぱり小豆の餡とは似て非なるものだったのよね……。


「どうしても作りたいんです! 先ほどのアレンさんの話を聞いたら余計に! 餡はクリームよりずっしりしてますから、食べ応えって点ではクリームパンを上回ってますし!」


「そうなんですか?」


「はい! そしてなにより、その二つができれば、アンバタとショコラバターもできる!」


 これ、大事!


 グッと拳を握って宣言した私に、アレンさんがきょとんとして首を捻る。


「アンバタ……とは? ショコラバターは……ショコラとバターですか?」


「はい、そうです。アンバタもそのまま、餡とバターです。それも作りたいんです!」


 前世からの私の大好物なんで!


「アンは甘いものだと伺いましたが……」


「はい、そうですよ」


「なのに、バターと合わせるのですか?」


 おやおや~?


「なにかおかしいですか? アレンさんはもうすでに『甘じょっぱい』の美味しさをご存じのはずですが」


 にーっこり笑って言うと、一瞬なんのことかわからないという表情をしたものの、すぐに今日のブランチを思い出しただろう。アレンさんが目を見開いた。


「あ……!」


「なんだ? なんだ? アマジョッパイってなんだ? オレさま知らないぞ! 教えろ!」


 イフリートが手足をバタバタさせて、不満そうに言う。

 私は「ごめんごめん」と笑って、イフリートの頭を撫でた。


「甘いのとしょっぱいのを一緒に食べると、またこれが美味しいのよ」


「甘いはわかるぞ。クリームパンみたいなのだろ? しょっぱいってのはなんだ?」


 あ、そっか。まだ肉体を得たばかりだもんね。知らないか。

 私は塩を引き寄せて、イフリートの肉球の上にちょんと乗せてあげた。


「これが、『しょっぱい』だよ」


 量はほんの少しだったんだけど、『しょっぱい』初体験のイフリートには十分衝撃的な味だったらしい。ボッと尻尾を膨らませ、金の目を真ん丸にしたかと思うと、「うぇ~!」っと顔を歪めて舌を出した。


「なんだ? コレ! 舌がカーッとして喉が渇く! おい、ティア! 嘘言うなよ! オレさまがなにも知らないと思って! これが『甘い』に合うわけないだろ?」


「いやいや、それが合うんだなぁ~。甘じょっぱいは正義! これ、真理だから!」

 しかも、全世界共通だから!


「う、嘘だ! 信じないぞ!」


 ふふふ。いい振りですね、イフリートさん。


「では、証明してみせましょう!」


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