10-16
また新たな目標――『やりたいこと』ができた。
いつかきっと叶えたい。
私はアヴァリティアだから。
◇*◇
「ティア!」
「ティアぁぁっ!」
お店のドアを開けた瞬間、アレンさんと私のにゃんこたちが叫ぶ。
「みんな……」
アレンさんに私のにゃんこたち、そしておそらくお店を護衛の聖騎士さんたちまでがいっせいに駆け寄って来る。
「ああっ! よかった!」
アレンさんがひどく安堵した様子で息をつき、私を力いっぱい抱き締める。
「よかった! ティア!」
「っ……」
アレンさんの早い鼓動が伝わる。たくましい肩も、力強い腕も、細かく震えている。
アレンさんがどれだけ心配してくれていたかが言葉よりも如実に伝わって、胸が熱くなる。
「精霊たちに、ティアはアーテルの受肉に集中しているから邪魔してはならないと言われて……。ああ、でも、気が気ではありませんでした。中にはアリス・ルミエスもいるとのことだったので、ティアが害されたらどうしようと……! そればかり……!」
「大丈夫です。そんなことはありませんでしたよ」
「それならいいのですが……」
アレンさんがわずかに身を離し、両手で優しく私の頬を包む。
「泣いた跡がある……。ひどいことをされたのではないですか?」
「いいえ」
「本当ですか?」
私をまっすぐ見つめるアレンさんの瞳が、不安げに揺れる。
光の加減で金色に見えるだけだと思っていたけれど、本当に黄金色だった美しい双眸。
でも、これからも私は気づいていないふりをする。
アレンさんが話したいと思うまで、その秘密を暴くような真似はしない。
私はアレンさんを見つめて、にっこり笑った。
「本当です。泣いたのは嬉しかったからです」
「嬉しくて? いったいなにが……」
アレンさんが途中で言葉を失う。いいえ、アレンさんだけじゃない。店の奥からゆっくりと姿を現したアーテルを見て、その場にいた全員が大きく息をのんだ。
「闇の精霊……アーテル……」
護衛の聖騎士たちがいっせいに膝をつく。
「受肉の成功、心よりお喜び申し上げます!」
「……ありがとうございます」
私は頷いて、お店を手で示した。
「説明は省きますが、中でアリス・ルミエスさんが眠っています。彼女を丁重に、王都――いえ、聖都の王太子殿下のもとへお連れしてください。そのあとは……本当に我儘で申し訳ありませんが、また私の目につかない形で護衛をお願いいたします」
「――御意に」
聖騎士たちが頭を下げたあと、素早くお店に入ってゆく。
背騎士たちがアリスを抱いて去ってゆくのを見送って、私はアレンさんへと視線を戻した。
「本当に、どこもなんともないですね? 心も傷つけられていませんね?」
念入りに私の身体を目視で確認しているアレンさんに、ホッとする。
アレンさんがどんな出自であっても、関係ない。
同じく、自分も聖女だとか、悪役令嬢だとか、そんなことは関係ない。
「ええ、大丈夫です!」
私はアヴァリティア・ラスティア・アシェンフォード。
そして、私は私だ。
身分や立場ではなく、自分自身に誇りを持つ――。
幸せになるためには、それが大事なんだと私は思う。
自分の道を、自分で切り開く。
自分の物語を、自分自身で紡いでいく。
私はアレンさんに――私のにゃんこたちに、アーテルに笑いかけた。
「さぁ、帰ろう! 明日も忙しいよ!」
幸せになるためには、一分一秒無駄にできない。
言いたいことも、やりたいことも、溢れているんだから。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
一旦一区切り。
あ! もちろん終わったわけじゃないです。ここから物語はまだまだ続きます!
ただ、書き溜めておいた分が一旦尽きたということです。
続きの更新時期は未定です。できるかぎり早めに再開できるように頑張ります!
少し空いてしまいますが、お待ちいただけましたら幸いです。
書籍は2巻まで出ています。
カドコミのほうでコミカライズ連載中です。
そちらも合わせてよろしくお願いいたします。