表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/167

10-12

「無理に納得しなくてもいいよ。私はそう思うってだけ。その考えを押しつける気はないの」


 私はそう言うと、めげずに手を伸ばし――彼女の手を優しく握った。


「私は今は言いたいことを言えて、やりたいことをやれているから幸せだけど……でも、やっぱりたまに寂しくてたまらなくなるときがあるの。私は転生者だから。このゲームの世界でただ一人、『異質』だから……」


 それは誰にも言えない――大きな秘密。


 私はずっと、それを抱えていかなきゃいけない。

 私はずっと、大好きな人たちにそれにまつわる小さな嘘を重ねていくんだ。

 その秘密を暴かれないために、心の境界線を守り続けていくんだ。


 それは、やっぱり寂しいし、悲しい。


「だから、正直に言うね? あなたは怒るだろうけれど……」


 私はアリスの手を握る自分のそれに力を込めた。


「今、すごく嬉しいよ。私、独りじゃなかったんだ……」


 その言葉に、アリスがビクッと身を震わせる。


「な、なにそれ……? やめてよ、悪役令嬢なんかが……」


 ――そうだね。ライバルの悪役令嬢なんかに好かれても、嬉しくないよね。


 でも、伝えておきたい。後悔したくないから。

 私は、私の思うままに生きるって決めたの。


「私の気持ちを言っても言わなくても、あなたを不快にしてしまうことが変わらないのであれば、私は伝えることを選ぶ。あなたは、あなた自身の幸せを見つけるべきだと思うよ。言いたいことを言おう。やりたいことをやろう。あなたの思うままに生きようよ」


「やめて……」


「自分を偽って、誰か(アリス)を演じているばかりじゃ、苦しくなるだけだよ」


 アリスが聞きたくないとばかりに首を横に振る。


「あなたがあなたらしく在ってこそ、あなたを好きになってもらえるんだと私は思う! ゲームのヒロインじゃない! あなたをだよ!」


「やめてったら!」


 アリスが絶叫し、再び私の手を振り払う。

 そして、自由になった手を勢いよく振り上げた。


「! アリスさ……!」


「勝手なことばっかり言わないでよ! 私の幸せを壊した張本人が!」


 私はギュッと目を瞑った。


 殴られても仕方がないと思ったから。それだけ私は好き放題言った。彼女は嫌がっていたのに。「やめて」と言っていたのに。それでも構わず、言いたいことを言い、やりたいことをやった。


 その報いはきちんと受けるべきだ。


『そこまでだ。暴力は看過できぬ』


 しかしその瞬間、頭の中に威厳のある声が響く。

 ハッと身を震わせると同時に、まわりの音が掻き消える。私は驚いて目を開けた。


「えっ!?」


 ドクンと心臓が大きな音を立てる。


 私は思わず、目もとに触れた。


 わ、私……目を開けているよね? どうしてこんなに真っ暗なの?


 店内の電気が消えたというレベルではない。なにも目に映らない、完全な闇――。


「っ……!」


 冷たいものが背筋を駆け上がる。


 嫌だ! 怖い!


 悲鳴を上げようとした――そのときだった。


「大丈夫だ、我が聖女よ。なにも恐れることはない」


 先ほどの声が聞こえる。今度は耳がそれを捉える。――音! 音だ! 音が戻った!


 大きく目を見開いた――その次の瞬間、私の視界を封じていた闇が掻き消え、景色が元に戻った。


 いつもと変わりない、見慣れた店内。


「……あ……!」


 慌てて視線を巡らせると、アリスは床に倒れていた。

 そしてその傍らに、黒猫がちょこんとお行儀よく座っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 四元素の猫らも他二つは別格みたいな言い回し以前してたけどついに来ちゃったじゃん!?
[一言] より上位の存在なのに見た目は黒猫と普通になるのか 光も白猫になりそう
[一言] その辺で毛繕いしてる白猫いませんか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ