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10-10

「た、たしかに……記憶や意識からすると、前世の私がアリス・ルミエスとして生き直してるって感じがしてるけど……でも、それがなんだって言うのよ?」


「私は、前世の自分とキャラクターが融合したと捉えているわ。あなたの認識――『前世の自分がキャラクターとして生き直している』も間違っていないと思う。どう認識していてもいいけれど、大事なのは、私たちは前世が混じっている時点でゲームのキャラクターとまったく同じではないということ」 


 私はアリスの手に自分のそれを重ねて、そっと襟元から外した。


「私はずっとつらかった。アヴァリティアを演じている間、すごくつらかった。今の私はアヴァリティアでもあるけれど、それでも……ゲームのアヴァリティアと私の考えはいつだって違ったから。こんなこと言いたくない。こんなことしたくない。だけど、シナリオどおりやらなくちゃいけない。シナリオで描かれていない部分でもアヴァリティアの設定から外れないように、常に演じていたわ。日常すべてが、ゲームに支配されていた……」


 アリスが大きく目を見開く。そんなことをしていたなんて、夢にも思わなかったのだろう。


「予定だって、シナリオを参考に組んでいたわ。トラブルが起きることがわかってて、その場所に足を運んだ。そうしないと、シナリオに狂いが出てしまうかもしれないから」


「…………」


「ずっと私は、自分を殺していた。自分の意見を言えない。やりたいこともやれない。ひたすら、ゲームのシナリオのままに動く日々――。地獄だったよ! 早く解放されたくて仕方なかった!」


「……なんで……どうしてそんな……」


 アリスが震える声で言う。私は小さく笑った。


「だって、『エリュシオン・アリス』が大好きだったから……。勝手なことをして、物語を壊してしまいたくなかった。それに、ここはゲームの世界だもの。キャラクターが予定にない行動をして物語をぐちゃぐちゃに狂わせてしまったら、いったいどうなるかわからなかったから……。だから、ゲームで描かれているところは、ゲームのアヴァリティアとして生きようって……」


 自分で決めた道だった。でも――。


「その間は、本当につらかった! 苦しかった! だから、予定どおり断罪されたときは嬉しくてたまらなかった! ようやくゲームから退場できる――その解放感ったらなかった!」


 もちろん、まだ終わりじゃなかった。エピローグで、その後のアヴァリティアについて少しだけ言及があったから。そのとおり罰もきちんと受けるつもりだったから。


「それでも、ようやく本音で話せる……。ようやく自分で自分の行動を決められる……。嬉しくて嬉しくて、一晩中泣いたよ……」


「…………」


「だから今、私はすごく幸せだよ。言いたいことが言えて、やりたいことがやれる。心から笑っていられる」


 そんな私の、笑顔を守ると言ってくれる人もいる――。


 ゲームのアヴァリティアを演じていたころからは考えられないぐらい、幸せだ。


「あなたは? あなたはまだ、その地獄の中にいるんじゃないの?」


「はぁ?」


 アリスがなにを言っているのとばかりに、鼻で笑う。


「アンタと一緒にしないでよ! アンタは悪役令嬢――嫌われ役だったからつらかっただけよ! 私はみんなから愛されているんだから!」


「そうかな? 私は、きっとヒロインに転生していてもつらかったと思う。だって、自分とは違うゲームキャラクターを演じなくちゃいけないことには変わりがないもの。あなたもヒロインとして行動してきたでしょう? 少しズルもしたけれど、思い出せるかぎり完璧に、アリス・ルミエスの言動をしてきた……そう言ってたよね?」


「っ……それは……」


「ゲームのヒロイン――アリスのキャラクターに沿った言動しかできない。自分の気持ちは殺して、常にアリスとして選択し、行動しなくちゃいけない。本音は言えない。心のままに行動することもできない」


 アリスの瞳が揺れる。


「誰にも、本当の自分は見せられない――」


「ッ……!」


 アリスはぐっと言葉を呑み込むと、私の視線を避けるように顔をそむけた。


「それは、つらくないの?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ティアは『王太子のことなど愛していなかったし、王妃になるなど嫌だった』から、シナリオ通りに行動したわけじゃなかったのですか?
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