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10-8

「そうなの?」


「邪魔にならないように、目につかないように遠くから、でもしっかりとこの店を守っているよ。お嬢さまの家もね。だから――」


 アレンさんが膝をつき、アニーと視線を合わせてにっこり笑う。


「どうか、神殿までお供させてください」


「っ……」


 アニーがかぁっと顔を赤らめる。


「わ、わかった……」


「ありがとう」


 ……アレンさん、相手は子供です。悩殺するのはほどほどに。


 アレンさんが理想の人になっちゃったらどうするの? アレンさんはスペシャルなんだから、アニーは結婚できなくなっちゃうよ?


 アニーの将来を心配しながら二人を見送って、私は厨房に戻った。


「さて」


 私のパンは、レーズンやグリーンレーズンから作った酵母を使っている。

 それで全然いいんだけど、実はアモレのジャムパンを作るようになってから、アモレの皮が大量に出るようになったのよね。貧乏性と言われたらそれまでなんだけど、その皮もなにかに使えないかと考えて――思いついたのがアモレの酵母。


 林檎や洋ナシからも酵母は作れるし、アモレでもできると思う。林檎酵母は前世で扱ったことがあって、それで焼いたパンはすごく優しい味わいだったのよね。

 上手くできたら、たくさん作ってテスト用に使うのもいいと思う。なにせ、皮は大量に出るからね。


「さすがに皮だけっていうのは作ったことないから……どうしよう? 皮だけでもできるかな? 果肉も少し入れたほうがいいかな?」


 でも、コスパ的に、皮だけでできたほうがいいよね。ああ、でも酵母ってパンの味わいにも影響するし、コスパと発酵力だけで考えないほうがいいかな? じゃあ、一旦皮だけと、実を入れたものと、どっちも作ってみようか。


「うん、そうしよう。じゃあ」


 湯冷ましを作るべく、ホーローのポットを手にコンロに向かった――そのときだった。

 バンッとドアが乱暴に開く音がする。

 その大きな音に私はビクッと身を弾かせ、視線を巡らせた。


「あ、あなた……!」


「アヴァリティア・ラスティア・アシェンフォード!」


 そこには、ヒロイン――アリス・ルミエスの姿が。

 アリスは憎々しげに私をにらみつけ、絶叫した。


「全部アンタのせいよ! アンタがいるから!」


 アリスが私をにらみつけたまま、ずかずかと店内に入って来る。


 私は慌てて厨房から売り場へ出た。自分から彼女に近づく形になったけど仕方がない。それより、厨房に入れないほうがいい。厨房には凶器となり得る危ない物が多すぎるもの。


 だって、どう見たって冷静とは思えない。


「全部、アンタのせいよ!」


「お、落ち着いて。いったいなにが……」


「落ち着けって!? これが落ち着いていられると思うの!?」


 アリスがさらに激昂した様子で叫び、私につかみかかる。


「ちょ、ちょっと! きゃあ!」


 そのまま壁際に追い詰められ、背中と後頭部が壁にぶつかる。


「うっ……痛……」


「落ち着いていられるわけないでしょう! 私のものを盗まれて!」


 胸ぐらをつかまれ、そのまま締め上げられる。私はアリスの細い腕をつかんだ。


「落ちつ……」


「私の邪魔をして! 私を不幸にして楽しいの!?」


「あ、あなたの……邪魔をしたつもりは……」


「はぁ!? 邪魔したつもりはない!? ふざけないでよ! 私から聖女の座を……そして私のものになるはずだったすべてを奪っておいて!」


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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?護衛は?どこにいるの? 対処しないの?
[気になる点] アリス、自ら墓穴を掘ってしまいましたね。 はっきり言って頭が悪いし、想像力に欠ける。 「あなたが聖女になったせいで、クリスティアン様が王位継承権を剥奪されそうになっているのよ!」と言…
[一言] 護衛いるから大丈夫って フラグぅ~( ;∀;) 護衛仕事してぇ~!!
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