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10-7

「やっぱり、みんな聖女さまのパンに興味があるのよね」


「そりゃ、そうよ。こんなに美味しいんだもの」


「本当に。パンが変わっただけなのに、いつものなんてことない食事がごちそうになるの」


 小柄な女性が顔を輝かせて、私を見つめる。


「うちは、バゲットとかバターロールとかブールとか、食事に合わせるパンが大好きなんですが、理由がまさにそれなんです。いつものパンはスープに浸して食べるでしょう? だから、スープとパンは同じ味で……。でも、聖女さまのパンは違うんです。大好きなんだけど、スープを味わい、パンを味わう。そしてまたスープを味わう。それだけで満たされ方が全然違うんです!」


「……!」


「わかるわ! いつものスープなのに、パンが違うだけですごく美味しく感じるのよね」


「そう! そうなの!」


 小柄な女性が胸の前で手を組み、本当に幸せそうに笑う。


「日常を特別にしてくれる。聖女さまのパンは、本当にすごいんです!」


「っ……!」


 その言葉に、思わず泣きそうになってしまった。


 私が目指しているものこそ、まさにそれだったから。


 心が満たされる食事――。


 私のパンでそれを感じてくれている――実際の声を聞けて、涙が出るほど嬉しい!


「ありがとうございます……!」


 小柄な女性に商品を渡しながら、震える声で告げる。


「頑張りますっ……!」


 どうして涙を堪えてお礼を言っているのか、いったいなにを頑張ると言っているのかわからない小柄な女性は、きょとんとして首を傾げた。そりゃ、そうよね。私の目標なんて知らないもの。

 でも、私は最高のご褒美をもらった気分だ。


「お礼を言うのはこちらです。いつも本当にありがとうございます。ハゲットのアレンジも試してみますね」


「はい、また感想を聞かせてください」


 力が湧いてくる。

 国中の人に、同じ幸せを感じてもらいたいという気持ちが強くなる。


 私は最高の笑顔で、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます! またのご来店をお待ちしております!」





          ◇*◇





「じゃあ、お嬢さま! 仕込みを見せてくれてありがとう! また明日ね!」


「こちらこそ、お手伝いありがとう! また明日ね!」


 元気よく手を振って駆けてゆくアニーに、こちらも手を振って応える。


 リリアとマックスは、販売終了後に簡単な片づけをし、賄いを食べたら帰宅するんだけど、最近アニーはパンの仕込みが見たいからと日が落ちるころまで残っている。

 彼女は例のパン職人に応募しているので、もちろん教えることはしていない。メモを取ることも許していない。やっぱり不公平はよくないからね。黙々と作業をしている私を横で見ているだけ。


 私の一挙手一投足を見逃すまいとする視線は痛いほどで、彼女の真剣度がビリビリと伝わる。


 頑張ってほしいと思う。

 頑張って、夢を叶えてほしい。

 それはきっと、アニーの人生を変えるから。


「アニーを送ってきます」


「はい、よろしくお願いします」


 アレンさんがエプロンを外して、アニーを追う。


「何度も言うけど、アレンのお兄ちゃん、神殿までは遠くないし、私は大丈夫だよ?」


「人攫いを甘く見ちゃいけないよ。アイツらは、家の前でだって襲ってくるんだから。用心してもし過ぎることはない」


 アレンさんの言葉に、しかしアニーは少し不安そうに私を見た。


「でも、お嬢さまを一人にするほうがよくないんじゃない?」


「ああ、言ってなかったかな? 聖女さまを守っているのは私だけではないから大丈夫だよ」


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