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10-2

「たかだか公爵令嬢だと? もうその認識が間違っているんだ! ヴァルター! アヴァリティア・ラスティア・アシェンフォードは、今や聖女なんだ! 貴族たちがなんて言っているか、知っているのか!?」


 貴族の現状も理解していないくせに、声高に王太子や自分を咎めるヴァルターに我慢ができなくなったのだろう。ギルフォードの口調が一気に荒れる。


「お前にもわかるように噛み砕いて教えてやろう! 『王太子のほうは替えがきく』だ!」


 アリスは大きく目を見開いた。


 いったいなにを言っているのだろう? クリスティアンは国王の一人息子。唯一絶対のはずだ。替えが効くなんてありえない。


 だが、アリスのその考えを、ギルフォードの次の言葉が完全に否定する。


「唯一無二で絶対的なのは聖女だ! 聖女の――精霊の怒りを買ってはならない! 国のためにも、王位を継ぐのは、聖女や精霊たちの支持を得られる人物にすべきだと!」


「ギルフォード!」


「やめなさい、ヴァルター」


 さらに激昂したヴァルターを、ニクスが静かに止める。


「ギルフォードに当たっても仕方がないことだ」


「先生……! でも……!」


 だが、ヴァルターも思うところがあったのだろう。そのまま沈黙する。


「私だって……悔しいんだ! でも、すでに貴族たちの意見はそうなんだ……!」


「……貴族たちだけじゃない。父王の考えもそうだ」


 震えるギルフォードの声に続いたのは、低く力のない――クリスティアンのそれ。


「じゃあ、アリスとの婚約は……」


「認めてもらえると思うのか? この状況で? むしろ、アリスだけは許さないと言われたよ……。これ以上、アヴァリティアとアシェンフォードの不興を買うわけにはいかないと……」


「そんなのおかしいよ! アリス先輩は被害者なのに! なぜ被害者が加害者の顔色を窺わないといけないの?」


 ノアがアリスの気持ちを代弁する。

 だが、それに対するクリスティアンの答えは、吐き捨てるような「うるさい!」だった。


「私だってそう思うさ! だが、父王の考えは違う! 貴族たちもだ! アリスさえいなければ、私とアヴァリティアが仲違いすることはなかった! そして……!」


「――アシェンフォードの怒りを買うこともなかったということですね」


 淡々としたニクスの声が、クリスティアンの言葉を引き取る。


「そうだ!」


「っ……!」


 全身に衝撃が走る。

 アリスはブルブル震えながら、足もとをにらみつけた。


(私はヒロインなのよ? それなのに……)


 自分がいなければうまく進んでいたなんて――どうしてそんなことを言われているのだろう?


(ここは、私のための世界のはずなのに……)


 なぜ、シナリオにここまでの決定的な狂いが生じてしまっただろう?

 ちゃんと、シナリオどおりに行動していたはずなのに。


「そんな!」


 ノアが悲鳴のような声に、アリスは弾かれたように顔を上げた。


「殿下が、先輩を幸せにしてくれると思ったから……ボクはっ……!」


「俺もだ! アリスを一番幸せにできるのは殿下だと思ったから身を引いたんだ! それなのに、なんて体たらくだよ!」


 ヴァルターの叫びとともに、ドンという音が響く。壁でも殴ったのだろう。


「譲るんじゃなかった! 奪ってやればよかったぜ!」


「ヴァルター!」


「私だって、アリスを誰よりも幸せにしてやりたいと思っている! アリスを心から愛している!その気持ちはずっと変わらない! っ……!」


 迷いのない力強い言葉に、ホッと息をつく。クリスティアンは変わらず自分を愛してくれている。やはり自分はこの世界のヒロインなのだ。そこは揺らいでいない。


 だが――その安堵は、すぐさま絶望に代わった。


「だが……! 最近のアリスは……なにを考えているのかわからない……!」


「――ッ!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大きな誤解ですね。ティア自身は、『王太子のこともアリスのことも、恨んでいないし嫌ってもいない』というのに。 ティアが、『自分が聖女になったせいで、クリスティアンが王位継承権を剥奪され…
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