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第十章  私は強欲――アヴァリティアだから!

 久々に、心が弾む。

 クリスティアンの部屋へと向かう足取りも軽い。


(攻略対象のみんなが来てくれるなんて)


 きっと、みんな心配してくれたのだ。


悪役令嬢(アヴァリティア)がもてはやされているこの状況……。どう考えたっておかしいもの!)


 みんながいてくれれば、シナリオから外れて歪んでしまった現状も正せるのではないか。


 そんな期待を込めて、ドアノブに手を伸ばした――そのときだった。


「どうすればアヴァリティアを取り戻せるだろうか」


 中から聞こえた――その信じられない言葉に、手が止まる。


 一瞬、理解ができなかった。クリスティアンはなにを言っているのだろう?


「……どういう意味だ、それは」


 続いて聞こえたのは、低く――まるで獣が唸るような、怒気を孕んだ声。


 攻略対象の一人――ヴァルター・レールミットだ。


「アリスを捨てるってことか?」


「馬鹿なことを言うな!」


 すかさずクリスティアンが反論する。


「じゃあ、どういう意味だよ!」


 ヴァルター・レールミット。クリスティアンの同級生。貴族の婚外子で、現在は傭兵をしている。

 燃える炎のような鮮やかな赤い瞳に三つ編みにした赤い長髪。元気で活発、嘘がつけない直情型。敵に回すと恐ろしい――危険な一面もあるがわんこ属性のイケメンだ。


「落ち着きなさい。早合点は君の悪い癖だ」


 ヴァルターをたしなめる落ち着いた大人の色香がある声は、ニクス・クラインだ。

 現在二十八歳。エリュシオン王立学園の教師で、魔法を教えている。

 深緑の少し目尻が下がった雰囲気のある瞳に同じ色のクセのある髪。穏やかで優しいが、どこかつかみどころがなく、秘密主義。二面性を隠した、妖しい大人の魅力に溢れた男性だ。


「……でも、ボクの耳にも、アリス先輩をないがしろにしているようにしか聞こえなかった」


 静かだがたしかなトゲのある声は、ノア・リデル・アルマディン。


「ノア」


「兄さんもおかしいと思わないの?」


 ノアに兄さんと呼ばれたのは、ギルフォードだ。

 クリスティアンを入れて、この五人が『エリュシオン・アリス』の攻略対象だ。


「……私は、王太子殿下のお考えも理解できます」


 苦しげなギルフィードの声に、アリスは愕然としてドアを見つめた。


(なにを言っているの……?)


 アリスの思いを代弁するように、ヴァルターが怒鳴る。


「ギルフォード! お前までなにを!」


「それほど、王太子殿下の置かれている状況は悪いのです!」


 ギルフォードがヴァルターの言を遮り、声を荒げる。


「王太子が短慮を起こして婚約破棄していなかったら、三百年ぶりに覚醒した聖女が王太子妃に、いずれは王妃となったものをと、王太子は国益を大きく損ねたと、両陛下だけではなく貴族たちも口々に殿下を非難している!」


「両陛下はともかく、貴族たちがあからさまに殿下を非難しているって? そんな!」


「聖女覚醒の祝いの席でアシェンフォードを怒らせてしまったことも、さらに殿下のお立場を悪くしてしまいました! 現在、殿下は国政の場からほとんど締め出されています。聖女の――そしてアシェンフォードの機嫌をこれ以上損ねないために! 本当に危機的状況なのです!」


 ギルフォードがさらに声を張り上げる。


「アシェンフォード公爵家の怒りを解くように。可能ならばアシェンフォード公爵令嬢との交流を復活させるように! それは、両陛下からの指示でもあります!」


「馬鹿な! 王太子に、たかだか公爵令嬢のご機嫌取りをしろと!? 正気なのか? 両陛下も! お前も!」


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