表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/167

9-13

 アルザールの声に隣を見ると、アヴァリティアが俯き、寝息を立てていた。


「明日も早いので、寝室に運びますね」


 そう言って素早く立ち上がり、アルザールが止める前に彼女を抱き上げる。


「いや、ちょ……待っ……」


 アヴァリティアに触れられるのも、彼女の寝室に入られるのも嫌なのだろう。アルザールが顔を引きつらせて立ち上がるも、アヴァリティアを起こしたくないからか、そのまま口を噤む。


 アレンは構わず、アヴァリティアを寝室へと運んだ。

 彼女をそっとベッドに寝かせ、布団をかける。


「おやすみなさい、ティア。よい夢を」


 額へのキスは――アルザールが激怒するのが予想できたので、残念だがしないでおく。

 アレンはアヴァリティアの髪を撫で、寝室を出た。


 廊下で待っていたアルザールが、ものすごく不機嫌そうにアレンをにらむ。

 アレンは肩をすくめ、ダイニングのほうを手で示した。廊下で話しては、彼女を起こしてしまうかもしれない。


「…………」


 アルザールが小さく息をつき、踵を返した。


「……聖都では、尋ねる隙がなかったのですが」


 ダイニングへ戻って扉を閉めるなり、アルザールが口を開く。


「あなたがティアの傍にいるのはなぜですか?」


 アレンがアルザールに向き直る。

 威圧感――いや、威厳のあるその視線に、しかしアルザールは怯まない。

 まっすぐアレンを見つめたまま、畳みかけるように言った。


「王位を狙っておられるからですか? アレンディード・カーティス・エリュシオン殿下」


「…………」


 アレンが無言のまま目を細める。

 双眸に宿った凶暴な光に、アルザールはごくりと息を呑んだ。


「……恐れ多い名を口になさいますね。私は、アレンディード・カーティス・ウィンズレッドです。王弟――ウィンズレッド大公の息子ですよ。まぁ、家系図に名も載っていない婚外子ですが」


「……表向きはそうなっていますね。あの王太子殿下なんかは、そう理解しておられるはずです。あなたのことは、血の卑しい従兄弟だと……」


 アルザールはアレンをまっすぐ見据えたまま、一歩彼に近づいた。


「でも、真実は違う。あなたは王弟殿下ではなく、国王陛下の御子だ」


 アレンの目がさらに冷たく、鋭くなってゆく。


「王族は主神――太陽神ソアルの血を継ぐ者。よって、髪と瞳は太陽神の黄金色と決まっている。だが、あなたは銀髪だった。王族は銀髪であってはならない。国王陛下は、王妃殿下の不義を疑い、あなたを我が子とはお認めにならず、王弟殿下に託されたと聞いております」


「……面白い話ですね。では、王太子殿下はどこの誰なのですか?」


「同時期に妊娠していた愛人の子です。その子がたまたま金の髪・金の瞳だった。そのため陛下は、その子を自身の第一子――つまり第一王子としてみなに公表したのです。それを知るのは……」


「それを知るのは、わずか数名の真の忠臣だけ。王妃殿下すら知らない。アシェンフォード公爵は、陛下が心から信頼する臣下だというのに、あのクリスティアンときたら……」


 アレンがそう言って、苛立たしげにため息をつく。

 アルザールは右手を胸に当て、恭しく頭を下げた。


「私はアシェンフォード公爵家の跡取りとして、父よりすべてを聞いております」


「そうか。では、先ほどの質問はする必要があったか?」


 アレンの口調がガラリと変わる。

 アルザールはビクッと身を震わせた。


「それは……」


「王位を狙う? それはどういう意味だ。王となりたいかという意味なら、ノーだ。ありえない。王家をぶっ潰したいかという意味なら、迷うところだな」


 アレンがアルザールをにらみつけ、酷薄な笑みを浮かべる。


「それはきっと、とても愉快だろうから」


「殿下……それは……」


「……冗談だ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ