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これを型に流し込む。気泡は完全に抜くこと。
そして、適切な温度で冷却。ただ冷やせばいいってわけじゃないの。冷やす温度が不適切だと、チョコレートの表面が白くなったり、ざらついて艶が消えてしまったりするの。
中心部分まで冷え切ったら、型から取り外して、できあがり。
ただ、商品によっては、ここから一定期間熟成をさせる。エンゲージングという作業ね。
ね? すごいでしょう? どうしてそれが二~三十円で手に入るのか、本当に意味がわからない……。
今回――テオブロマたちに進呈いただいた実はすべて、グレドさんに紹介してもらったココアを製造している業者さんへと持ち込んで、すべてカカオニブの状態にしてもらうよう依頼。
もちろん、それは今から発酵・乾燥するわけだから、そのカカオニブを手にするまでにはかなり時間がかかってしまう。それを待ってはいられないじゃない?
だから、ココアにするためのカカオニブを一部買い取らせていただいた。
それと、たくさんの完熟した赤い洋ナシもどきの実を持って、その日は帰宅。
一晩ゆっくりと休んで、翌日さっそくチョコレートの試作に取り掛かったわけだけど……これが想像以上にキツかった!
カカオニブを細かく砕いて、すり潰して、ほかの材料を加えて、さらにすり潰して、すり潰して、すり潰して、練って、練って、練るだけ。やること自体は、ものすごく単純で簡単なんだけど――これが手作業だと、まさに地獄!
すりこぎで、もう何時間ゴリゴリやってることか……。腕が取れそう……。
「だいぶなめらかになってきてはいるんですが……」
見た目は、トロリとなめらかなペーストになっている。
けれど、それを指につけて舐めてみると――まだ舌にざらっとしたものが当たる。
「本当ですね。少しザラついています。この状態でも、もちろんものすごく美味しいですが……」
「でも、これではまだ駄目です」
舌触りがよければ、もっと美味しいもの。
そこから、またすりこぎでゴリゴリゴリゴリ……。
結局、八時間以上ゴリゴリやって、テンパリング。型に流し込んで、冷蔵庫へ。
朝から格闘して、食べられるようになったのは夜のことだった。
「うみゃぁああああっ!」
一粒口に入れた瞬間、イフリートが目を真ん丸にして叫ぶ。
「甘ぁ~い! なにこれ? 最高じゃないの!」
「美味しい! 甘くて、香ばしくて……こんなのはじめてだよ!」
「香りが好きだ。甘いだけじゃないのもいい。ほんのり苦みがあって、俺も好きだよ」
にゃんこたちには大好評。
アレンさんはというと――。
「これは……!」
一粒口に入れて、息をのむ。
「口の中ですぅっと溶けてゆく……。ティアがなめらかさにこだわった理由はこれですね。これがくちどけですか……」
そのまま目を閉じてしみじみと味わって――ほぅっと感嘆の息をついた。
「甘くて、わずかに苦くて、香ばしい香りがクセになります。なるほど。これはたしかに爆発的に売れるでしょうね。売れないわけがない」
アレンさんはもう一粒口に入れてしっかりと味わったあと、
「ですが、これは作るのがかなりたいへんですね……」
「そうですね……」
チョコレートとして売り出すだけならそれでもいいのかもしれないけれど、私はあくまでパンがメイン。チョコレートは、その材料として使いたいんだもの。
そう考えたら、労力も時間もかかり過ぎている。
「これは……」
私はトントンと人差し指で頬を叩きながら考え――にんまりと笑った。
トースターに続いて、親孝行の使いどころかな?
少しお休みをいただきます。
九章開始は8月7日(水)です。
再開をお待ちくださいませ。