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にゃんこたちも目を丸くして、その美味しさに大興奮。
「甘みはもう段違いで、香りも豊かです。こんなにも違うなんて!」
アレンさんも、心底驚いた様子で私を見る。
「すごく美味しいです!」
「ですよねっ?」
やっぱりこの果実、欲しいよっ!
「あの、グレドさん! この実の旬――収穫時期はいつですか? そして、そのときどのぐらいの数が確保できるんですか?」
「ええと、旬はありません。わ、私の栽培方法でしたら、三ヵ月に一度収穫できます。一本につき最大三個なので、木は千本ありますから……」
「最大三千個……」
三ヵ月に一度、最大三千個かぁ……。希少価値が出るほど少ないわけじゃないけれど、大々的に売り出そうと思ったら圧倒的に少ない。
私はチラッと傍らの木を見上げた。
でもこの子、私の歌でめちゃくちゃ実をつけたけど? それこそ林檎の木のように。
アレンさんもたわわに実っているそれを見て、眉をひそめた。
「一本につき最大三個? 五十個は実ってそうですが……」
「ですよね……?」
これ、訊いてもいいものかなぁ? 精霊と聖騎士を伴った聖女に尋ねられたら、秘密にしたいと思っていても答えざるを得なくなっちゃうだろうから……んー……どうしよう?
ものすごく迷ったけれど、でもそこがクリアになるかならないかで考え方が変わるしなぁ……。
私は「答えたくなかったら答えなくていいですから」と何度も念押ししてから、尋ねてみた。
「グレドさんの栽培方法って、どんなものなんですか?」
「木を見つけた国で教えられたのは、温かな気候、たっぷりの日光、綺麗な水、肥沃な土。そして、木を幸せにすること、でした」
「木を幸せにすること?」
「はい。その幸福感が実となるのだと」
予想外の答えに、思わずアレンさんと顔を見合わせる。
「その生産者は週一で酒を呑ませていました。呑ませると言っても、水の代わりに土にたっぷりと染み込ませるのですが。しかし、それを実践しても実をつけてくれず……。試行錯誤のうえ、私がたどりついた方法は、毎日一本一本手入れをしながら褒めちぎるというもので」
「褒める、ですか?」
「はい。今日は葉の艶がいい。枝ぶりがいい。表情が優しい、柔らかい。声がいい。花が咲いたら、綺麗だ、可憐だ、美しい。この香りが好きだ、など……」
「ええっ!? ま、毎日欠かさず、千本全員に誉め言葉をかけてるんですか!?」
す、すごい! たしかに、自己肯定感は上がって幸せな気持ちになれそう!
でも、毎日毎日褒めて、褒めて、褒めてまくって――三カ月に一度、最大で三つの実しかつけてくれないのかぁ……。うーん……。労力と結果が見合ってないと思ってしまうのは私だけ?
とはいえ、さすがに私がここに歌いに来るのはなぁ……。ポータルの乱用で叱られそう。
悩んでいると、グノームがグレドさんの足をちょんちょんとつついた。
「は、はい! 精霊さま! なんでございましょう?」
「あのね? この子たちはみんな、お歌が好きだよ。ティアの聖歌は格別だけど、それ以外でも。お歌を歌ってあげてよ。喜ぶよ」
「歌、ですか? ええと……」
グレドさんが少し考えて――パンパンと手拍子しながら陽気な歌を歌い出す。私は知らない歌だ。この地方の民謡かなにかかな?
木たちがじっとグレドさんを見つめ、それから幹をくねらせ枝を揺らしてリズムをとりはじめる。おお? いい感じじゃない?
グレドさんの声が聞こえない位置の木たちは、リズムに乗り出した木たちを『なんだ?』『なんだ?』と不思議そうに見ている。
そのうち、少し花を咲かせたり、ポコッと一つ実を結んだりする木が出てくる。
グレドさんは目を見開き、その木に駆け寄って実を手に取った。
そのまま、しげしげと観察し、心底驚いた様子で私たちを振り返った。
「しゅ、収穫できる状態の実です。聖女さまが聖歌を歌われたときは完熟していましたが……」