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第八章 えっ!? 魔物って意外に美味しい!

 まだ夜が明ける前の暗い時間――。


 白亜の神殿も、その銀の髪も、藍色の闇に沈んでしまうことなく、ただただ綺麗だ。


 私は駆け出しながら、手を上げた。


「アレンさん!」


 銀の髪を揺らしてぱっと振り返り、アレンさんが優しく目を細める。


「ティア」


 聖騎士服を着たアレンさんは、今日も変わらず凛々しく、美しい。


「お待ちしておりました」


 ここは、マックスやリリィ、アニーたちがいる孤児院が併設されている――つまり、私がいつもお世話になっている神殿。


 私は知らなかったんだけど、神殿では必ず聖女の間を用意することが義務づけられているそう。


 それは、神殿の規模によって大小あるけれど、だいたい二階建て以上の円柱状の塔の最上階で、丸いドーム型の屋根には神と聖女と精霊のモザイク画を描き、床には聖女のものとされる魔法陣を刻んであるらしい。

 聖女が使うため――らしいんだけど、でも実際、聖女は三百年現れなかったから、今でもすぐに使える状態にしてあるところは少ないらしい。まぁ、そうよね。働き手があり余ってる神殿なんてそんなにないだろうし、まったく使う予定がないところの整備まで、普通は手が回らないよね。


 かくいうこの神殿も、あまり手入れをしていなかったから、私が聖都に行ったり王都に行ったりしているうちに、急ピッチで手入れ・補修をしなくちゃいけなかったみたい。


 ここに来た理由は、聖女としての義務を果たすため。


 世界樹・ヴェルディンさまが仰った、聖女として果たすべき三つの努め。


 一、毎日決まった時間に、天に聖歌と祈りを捧げること。

 一、精霊にゃんこたちを健やかに育てること。

 一、私自身が心身ともに健やかであること。


 この――『毎日決まった時間に、天に聖歌と祈りを捧げる』ため。


「道中、何もありませんでしたか?」


 聖女の間に向かいながら、アレンさんが心配そうに私を見る。


「はい、大丈夫でした」


「迎えに行くといったのに……。どこに何が潜んでいるかわからないのですから……」


「精霊たちもいますし、大丈夫ですよ。アレンさんの家からは神殿のほうが近いんですから、私の家に寄るのは遠回りになってしまいます」


「遠回りとか、そういうことではありません。警護は嫌がらないと言いませんでした?」


 う……。


 私が口ごもると、アレンさんがため息をつく。


「またティアの家に泊まり込めたら、一番いいのですが……」


 そう、実はね? お兄さまに、アレンさんが私の家に寝泊まりしていたことがバレてしまったの。


 当然、お兄さまは激怒したよね……。まぁ、必死に、聖女(わたくし)の身を守るためだったんだと宥めたら、一応は納得してくれたんだけど……でも、視線だけで人を殺せたら、お兄さまは間違いなくアレンさんを殺していたと思う。そんなレベルの殺意を感じた。

 だけど、そのあとの行動は想像の斜め上だった。すぐさま私のパン屋の近くの家を買い取って、それをアレンさんに渡して、そこに住むように言ったの。妹を護ってくれた――そしてこれからも護ってくれる報酬だと言って。


 お兄さまとしては、『一つ屋根の下、駄目! 絶対!』ってことだったんだろうけど……。


 でも、妹と同じ空間に居させないためだけに家一つ買い与えちゃうなんて、やっぱりお兄さまのシスコンはレベルが違うというか――病的だと思う。


「ティアが警護を鬱陶しがっているのはわかっていますが、神殿のほうもティアの気持ちを第一に、警護に当たる騎士の人数を最低限にするなどの譲歩をしてくださっています」


「……はい……」


「なにより」


 アレンさんが足を止め、まっすぐ私に向き直る。


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