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7-16

「は、はい!」


 一人がバタバタとキッチンを出てゆく。


「あ、あの……私たちがなにか粗相を……?」


 みるみるうちに青ざめてゆく一人の手を両手で握り締めて、私は笑顔で首を横に振った。


「いいえ、そうじゃないわ。あなたたちの話を聞いていて、どうしても作りたいものができたの。それだけよ」


 むしろ、感謝しなきゃ。今の私のお店に足りないものを教えてくれたんだもの。


 今の私のお店に足りないもの――それはときめきよ!

 見ただけで、心踊る――期待感に胸が膨らむ、つまりときめくパン!


 そうっ! メロンパンっ!


 夜会のときに作ろうって思いついていたのに、そのあと王太子殿下に絡まれたアレコレのせいですっかり忘れていたわ!


 私が作るのは、メロンを連想する丸いドーム型に格子状の模様がついたあのメロンパン!


 大きいのがいいわ! 一目見て、子供たちが目を輝かせずにはいられないぐらい!


 そして、誰もが虜になる――カリッ、サクッ、ホロッとしたバターのきいた甘いクッキー生地にふわふわの柔らかいパンのハーモニー!


「料理長! ホーロー容器に入ってるフォカッ……ええと、いくつも穴が開いている平らのパンは、お父さまたちの夕食にお出しして! あとは使用人たちみんなで分けてちょうだい!」


「ええっ!? よ、よろしいのですか!?」


「ええ、もともとみなに食べてもらうつもりだったから。後片付けが途中でごめんなさい!」


「食事の用意を手伝っていただいたので、それは全然構わないのですが……」


「ありがとう! ――オンディーヌ!」


 笑顔でお礼を言って、キッチンから飛び出しながら、オンディーヌを呼ぶ。

 すぐさま私の声に応えて、海のように青い毛並みのおしゃまさんが現れる。


「ふふん! やぁーっとアタシを一番に呼んだわね? 褒めてあげるわ!」


 その言い草に思わず笑いつつ、私はオンディーヌを抱き締めた。


「手伝って! オンディーヌの意見が欲しいの!」





          ◇*◇





 鉄板を、慎重に石釜オーブンから出す。


 ずらりと並んだ、格子の模様がついた、丸い、黄色い、そして大きなドーム型のパンたち。


「「「おお~っ!」」」


 イフリート、グノーム、シルフィードが目を真ん丸にして、歓声を上げる。


「すごい! 大きいぞっ!」


「す、すごく綺麗な色だね!」


「たしかに、女子供が好きそうなビジュアルだよね」


「…………」


 女子供って……シルフィードも受肉したてのお子ちゃまじゃない。


 って言うか! そう、この反応っ! これが見たかった! そのために、オンディーヌ以外にはごめんなさいして試作の間は作業を見ないようにしてもらってたの。


 以前のように、姿を消してこっそり覗いてるかもなんて思っていたけれど、この反応を見るに、ちゃんと我慢して待っていていくれていたみたい。


 私の傍で、店には並んでいないパンやパン料理、スイーツを日常的に見ているにゃんこたちでもこの反応だから、これは間違いなくイケるでしょう!


 メロンパンってやっぱりときめくよね!


「アタシがカンシュー? で、あってる?」


 オンディーヌが私を見る。


「うん、あってる。オンディーヌが監修」


「そう! アタシがカンシューしたんだから、よく味わいなさいよ!」


 オンディーヌが誇らしげに言って胸を張る。くっ……! 可愛いっ……!


「え? 大丈夫? オンディーヌにパンのなにがわかるって言うのさ?」


「ボ、ボク……ちょっと心配になったかも……」


「それは言わないほうがいいヤツだぞ! オレさまでもわかる」


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