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7-15

 あ、そうだね。コンポートもできたし、クラフティももう焼けるから、キッチン中が甘い香りで満たされている。外にも香ってたの?


「食べる? わたくしと料理長だけじゃ食べ切れないから」


「よ、よろしいのですか?」


 メイドたちがぱぁっと顔を輝かせる。


「いいよ。ただ、ここにいる人だけになっちゃうから、みんなには内緒ね?」


「は、はい! ありがとうございます!」


 メイドたちが「やったぁ!」とはしゃぎながら、中に入って来る。


 クラフティをオーブンから出して、焼き加減を確かめる。うん、ばっちり。

 メイドの一人に小皿に取り分けてもらって、コンポートと焼き立て熱々のクラフティとみんなで味見する。


「うわぁ! これ、美味しい!」


「ああ、とろけてしまいそうです!」


 歓声を上げて喜ぶメイドたち。

 私と料理長は顔を見合わせ、笑顔で頷き合った。


 コンポートは、やっぱり洋ナシよりもしっかりめに歯ごたえが残っていて、だけど甘さは強く、後味の清涼感と白ワインがすごくよくマッチしている。


「最後にホワイトラムを入れてもいいかもしれませんね」


「そうね。これは赤ワイン煮もすごく美味しいでしょうね」


「クラフティも、果実がカスタードの濃厚さに負けていません。しっかり甘いのに、カスタードと合わせると、後味の爽やかさが際立つのもいいですね」


 うんうん、本当にそのとおり。

 あ~っ! やっぱりこれ、欲しいなぁ~っ!


「こんなに贅沢にフレッシュな果肉を楽しめるって、幸せ……!」


 メイドの一人が、涙ぐみながら言う。


「わかる。生で食べても美味しいフルーツにはなかなか手が出せないものね」


「そう、だから普段買うのはドライフルーツ。それも美味しいんだけれど」


「だけど、このフレッシュさ、ジューシィさには敵わないよね」


 メイドたちがうんうんと頷く。


 そうよね。侍女はともかくメイドのほとんどは貴族ではないから、そんな感じだと思う。


 生で食べても美味しいレベルのフルーツは、やっぱり高い。庶民にはなかなか手が出ない。

 ひどくすっぱかったり、渋みなどのクセがあったり、生で食べるのはちょっと……というものはわりと手に取りやすいお値段だけれど、そういうものはだいたいがっつり加工する用なのよね。


 お酒や蜂蜜などをたっぷりと加えて、形が崩れるまで煮込んだジャムは、火を通したと言っても最低限の、このフレッシュなコンポートとは『フルーツ本来の味を楽しむ』って点では、やっぱり大きく違う。


 フルーツかぁ……。この世界のフルーツは、先日の夜会のメロンもそうだったけれど、まだまだ二十一世紀の日本のそれよりもすっぱかったり、青臭かったり、変な渋みがあったり、甘みも味も薄かったり、果肉がすごく少なかったりすることが多い。


 それでも、調理次第ではすごく美味しく食べられるし、庶民にとっては貴重な甘いものでもある。 だから、やっぱりフルーツってときめくものなのよね。


「甘いもの……。甘いパン……」


 私は空になったお皿を見つめた。


 フルーツを前にしたときのように、ときめく……甘いパン……。


 クリームパンやあんぱんも甘い。それらだってこの世界の人たちにとっては目新しく、珍しい。充分にときめいてくれているかもしれない。でも、もっと……。


 ビジュアルが最高に良くて、見ただけでときめく甘いパン――。


「っ……!」


 私はバッと勢いよく顔を上げ、メイドたちを見た。


「ごめん! 明後日までここにいる予定だったけど、今すぐ帰るわ!」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 フルーツ談議に花を咲かせていたメイドたちが、一斉に目を丸くする。。


「いいいい今からですか!?」


「そう! 執事に馬車を用意するように、あと神殿にポータル使用の許可を取るよう伝えて!」


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