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7-12

「アシェンフォード公爵家の怒りを買ったな」


「いいえ、アシェンフォード公爵家だけではありませんわ。アヴァリティアさまは聖女ですのよ」


「そう、神殿を敵に回したも同然ですわ」


「この国の将来を担う方が……なんという失態か」


 ヒソヒソとそんな言葉が聞こえてくる。


 ――嫌な気分だった。エリュシオン王立学園の卒業パーティーを思い出す。

 そのときは、私がヒソヒソされる側だった。


「……わかりました」


 コクンと小さく頷くと、お父さまが優しく私の手を引き、お兄さまが私の腰に優雅に手を回して、エスコートしてくれる。


 その手の温かさに、頼もしさに、心がじんわりと温かくなる。

 こういうとき、この人たちが家族で本当によかったと思う。


「イフリート、行こう」


「おう!」


 私はお父さまとお兄さま、そしてイフリートに守られて、大ホールを出た。


「それにしても、大人になったじゃないか、アルザール。よく我慢したな」


「え? お兄さま、なにか我慢してらっしゃいました?」


 めちゃくちゃ王太子殿下につかみかかってましたけど?


「ものすごくしていたよ。なぁ?」


「そうだよ、相手が王太子じゃなかったら殺してた」


「ええっ!?」


 じょ、冗談よね?


「本気じゃないですよね?」


「なぜ? アシェンフォード家の男は()ると言ったら()るよ」


 ええ~……?


「オレさまも、これ以上ティアを傷つけたら、燃やしてたぞ!」


 イフリートまでもが胸を張って言う。やめて! アシェンフォード家の男の影響を受けないで!


 だけど、やっぱりとても嬉しい。この人たちの家族で、本当によかったと心の底から思う。


「もう……! わたくしの騎士(ナイト)たちは本当に頼もしいですね」


 私は笑いながら、お父さまとお兄さまの腕に自分のそれを絡めた。


「大好きです!」





          ◇*◇





 自分がこのセリフを口にすることになろうとは――。


『むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった。後悔はしていない』


 キッチン中に所狭しと並んだパンたちをぐるりと見回し、私は大きく息をついて額の汗を拭った。


 ああ、大満足! スッキリしたーっ!


 ここは、王都のアシェンフォード公爵家の屋敷。実は、聖都からバンズとコッペパンを焼くため家に戻った際に、残っていた元種と酵母を持って来てたんだよね。なにかに使うかもしれないって。


 実際、元種は聖都にいる間に使い切った。家ほど道具が揃ってないから、バンズとコッペパンは無理だったけど、鍋やフライパンでも作れる蒸しパンやちぎりパン、薪ストーブや薪オーブンでも失敗が少ないフォカッチャなんかにして、みなさんに提供したから。


 それで、王都には酵母だけ持って来てたんだけど――まぁ、いろいろストレスが重なったので、つまりむしゃくしゃしていたので、昨日今日とキッチンの半分を占領して思いっきり気が済むまでパンを焼いてたってわけです。ふぅ。


 ちなみに、『誰でもよかった』は、食べる人をいっさい想定していない、本当にストレス発散のためだけにってこと。


 さて、うちのにゃんこたちが食べる分を除いて、あとは使用人のみなに押しつけて回ろう。


 そう思いながら、エプロンを外したとき、料理長が大きな木箱を持ってやって来る。


「ああ、お嬢さま。食材をしまってもよろしいでしょうか?」


「あ、ごめんなさい。もう気が済んだから、すぐに片づけるわ」


「謝る必要はありませんよ。お嬢さまがキッチンを使ってらっしゃる間、わたくしどもはとってもラクをさせていただいておりますので、いつまででもどうぞ」


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