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7-11

「だ、だったら! あの場で反論すればよかっただろう! そんなことはしていないと!」


「妹は、謝罪するようなことはないと言ったはずですが?」


 覚えがあるのか、王太子殿下は再び言葉を詰まらせた。


「い、虐めてなかったのだとしたら、なぜアヴァリティアを勘当したんだ! おかしいだろう! お前たちもアヴァリティアの罪を認めたからこそ、罰したんじゃないのか!」


「いいえ、違います。貴様なんぞと一緒にするなよ」


 お兄さまはドスのきいた声で言うと、ついに王太子殿下の胸ぐらをつかんだ。


「お、お兄さま……!」


「ティアは父に、自分のしたことを証拠とともにきちんと説明したよ。このとおり、自分は虐めはいっさいしていないが、虐めの首謀者とされ婚約破棄された責任の一端は自分にもあったと思う。日頃の行いが悪かったからだ。周りと合わせることをいっさいせず、自分勝手で我儘放題だった。だから敬遠されてしまい、友人と呼べる者も独りもいない。誰とも信頼関係を築けなかったから、誰も自分の言葉を信じてくれなかった。その状況を作ったのは自分だ。自分の落ち度だと」


「なっ……? まさか……」


「そのせいで婚約破棄となり、公爵家に迷惑をかけてしまった。だから勘当してくれと、ティアは父に頭を下げたんだ! 生まれ変わるためにも、罰を受けたい! 受けさせてくださいと!」


「っ……」


 王太子殿下が、そんなばかなと言わんばかりに顔を歪める。


「おお……」


「なんと高潔な精神なんでしょう……」


 それは嘘じゃない。本当に私はそうしたの。


 もちろん、ゲームのシナリオどおりにするためというのが一番の目的ではあるけれど、悪役令嬢アヴァリティアに終止符(ピリオド)を打つためでもあった。


 きちんとけじめをつけて、生まれ変わったアヴァリティアとして新たな一歩を踏み出すために。


『生まれ変わるためにも、罰を受けたい! 受けさせてください!』


 それは――私の心の底からの言葉だった。


「だいたい、本当に平気で虐めをしてその罪もろくに贖っていないような人間が、神に選ばれ、精霊に好かれるはずがないだろう! 少しは常識でものを考えろ!」


「か、神に選……?」


「当然だ! 精霊に受肉させる能力は、ティアが神より賜りし才能だろうが!」


 その言葉には、周りの人々もそうだそうだと頷く。


「第二夫人だと? 侮辱にもほどがある! ふざけるのも大概にしろ! 貴様ごときが、ティアに指一本触れられると思うな!」


 お兄さまはそう言って、ドンと王太子殿下を突き飛ばす。

 そして、尻餅をついた殿下を見下ろし、ホール全体に響き渡る声で最後通告を突きつけた。


「二度とティアに近づくな!」


 お兄さまが王太子殿下を殴らなかったことに胸を撫で下ろしていると、背後から静かな声が響く。


「ティア、アルザール」


 私はハッとして振り返った。 


「あ……。お父さま……」


「帰るよ」


「あの……でも……」


「大丈夫」


 お父さまは私の手を取りながら穏やかに微笑んで――一転、王太子殿下を冷たく見下ろした。


「これ以上つきあう義理はない」


 その目には、一片の慈悲もなかった。


 お父さまもお兄さまも、私のために怒ってくれるのはものすごく嬉しいけれど、相手は腐っても王太子だよ? いいの? そんな態度……。


 二人が罰せられやしないかとヒヤヒヤしていると、お父さまが耳元に顔を寄せて囁いた。


「陛下への挨拶は済ませてある」


「!」


 そしてそのまま、チラリと視線を背後に向ける。

 そっとそちらを窺うと、国王陛下はひどく険しい表情で、呆然と座り込んでいる息子を見つめていらっしゃった。


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