シャワー
読んで戴けたら嬉しいです。(人´▽`*)♪
「古い建物だから、埃とか酷かったでしょう
もしシャワーを浴びたくなったら、玄関の向こう側が私の居住区域になっておるので、いらして下さい」
佳代はそう言って部屋を出て行った。
里香は静音のベッドの足元に腰掛け、孝則は床に足を投げ出し座り込んだ。
「親切な人で良かった」
里香が肩を竦め言った。
「ああ、でもなんだか不思議な人だよな
世捨て人って何か人間関係で嫌な事でもあったのかな」
「解んないけど、人間嫌いでは無いんじゃないのかな
アタシたちに親切にしてくれるんだから」
孝則は眠る静音を見詰めた。
「静音、少しは落ち着いたみたいだな」
里香はやっと気の抜けたように微笑んだ。
「そうだね、良かった」
孝則は腕時計を見た。
「もう夜中の11時だ、こんなに時間が経ってたんだな
まだ1時間くらいしか経ってないように感じてた」
里香は相槌を打った。
「遅くならない内にシャワー浴びさせて貰った方がよさそうだ
どうする? 」
「アタシはもう少しここで静音を見てるよ」
「そっか、じゃあオレ先に浴びて来る」
立ち上がってノブに手を掛けると、寝ていた静音が急に目を見開き、起き上がって言った。
「あの女には気を付けた方がいい」
そう言ったかと思うとまた横たわり目を閉じた。
二人は首を傾げる。
「静音、何言ってるの?
意味解んないよ」
静音は目を閉じたまま答えなかった。
里香は肩を竦める。
孝則はフッと笑って部屋を出た。
玄関を通り過ぎた部屋のドアをノックすると中から「どうぞ」と声がしたので孝則はドアを開いた。
見るとリビングのようで中央にソファが置いてある。
生活感が感じられないほど整理されて、佳代の性格が窺える。
奥の部屋から佳代が現れて言った。
「シャワーを浴びにいらしたんですね
こちらですよ」
と、風呂場を案内された。
「ごゆっくりどうぞ」と言うと佳代はリビングに戻って行った。
古い建物なのに風呂場はユニットバスになっていて棚の横には鏡が設置してある。
温かいお湯を浴びていると、気分がもても落ち着いた。
冷静になって考え直してみると、どうにも実感できない。
夢の出来事のような、自分とは掛け離れた出来事のように思えて来た。
髪を洗っていたので孝則は目を閉じていた。
鏡には孝則の濡れた太腿が映っていた。
鏡の中の太腿から黒ずんだ何かが突き出て来る。
黒ずんだ指が鏡から伸びてこちら側に剥き出しになる。
髪を洗っている孝則は気付くことは無く、降り注ぐ雫の大群を楽しんでいた。
黒い指がそおっと孝則の太腿に触れた。
孝則は太腿の辺りが何かくすぐったい気がする。
泡が滑り落ちてくすぐったいのたろうと気にもしていなかったのだが、泡が落ちたので太腿を見ると鏡から手が伸びて孝則の太腿を掴もうとしていた。
孝則は悲鳴を上げてドアに後退りし、しりもちをついた。
黒ずんだ腕があり得ないほど長く伸びて、それを避けようドアに貼り付く孝則の腕を掴む。
恐ろしくひんやりとした温度が全身に広がる。
何処からか、くぐもった声が聞こえた。
その声は出して、出してと言っているように聞こえた。
腕を掴むひんやりとした手の力が次第に強くなって行く。
孝則はパニックになり悲鳴をあげながらその黒ずんだ手を引き離そうとガッチリ食い込む指を剥がすが、一本剥がすと他の指が食い込み、また別の指を剥がすとまた別の指が食い込んだ。
そうしている間も「出して、出して」と言う声が壁からや耳元や床からとあちこちに反響するように襲って来る。
居たたまれなくなった孝則は全部の指を握って引き剥がし、慌ててドアを開け風呂場から飛び出した。
黒ずんだ手は空を掴んだ。
脱衣場の服を鷲掴みにし、自分が裸だと云う事も忘れリビングに逃げ込んだ。
リビングには誰も居なかった。
孝則は急いで服を着込もうとするが濡れた身体ではスムーズに着る事ができない。
風呂場の方を、目を見開きガン見しながらなんとか服を着終えると里香たちがいる部屋へと、あいつが追って来るのではないかと云う恐怖に振り返り振り返り走った。
読んで戴き有り難うございます❗゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
夏のホラー企画のお陰で、普段よりアクセス数がとても沢山あって、驚いています。
企画の力って凄いんですね。ヽ(・д・)ノ