3 残念王子はポンコツ令嬢のために奔走する
3 残念王子はポンコツ令嬢のために奔走する
時はさかのぼること、エリザベートがレオナードに平手打ちした直後のこと。
レオナードの部屋でマルコはレオナードに力説していた。
「いいか、残念王子。これはチャンスだぞ。」
「マルコ。エリザベートを騙すようなことは」
「もう、王妃様の堪忍袋は切れる寸前だ。
王宮のメイドを我が物顔で使い走り、エリザベート嬢の王宮の評判はガタ落ち。王宮に使えるメイドたちはそこそこ名のある貴族も多い。よって、貴族からもエリザベート嬢が王太子の婚約者に相応しくないという意見も出ている」
「しかし、俺は…エリザベートの味方でありたい」
「だからだよ。レオナード。いいか?
エリザベートが完璧なレディになれば誰も文句は言わなくなる。今だから、子供のしたことで許されるがこのままだと婚約破棄だ。
だ、か、ら、あの本を預言の書と思い込ませたままにしろ。少しでもマシになるなら嘘でも使え」
「あまりエリザベートに嘘はつきたくない」
「わかっている。お前はそんな奴だ。
だから嘘はオレがつく。お前は黙っておくだけでいいから。それとも、もしかして」
「俺は婚約破棄を考えてない」
「そうだな。恩人だもんな。」
「それもある。」
「なら、オレに協力しろ。まずはエリザベート嬢がどんな本を見ているのか、お前が調べろ。」
「ー分かった。エリザベートのためなら」
こうして、二人はエリザベートを勘違いさせたままにすることにした。
「でも、マルコ。あの本は本当に預言書ではないのだな。」
「まさかレオナードも信じているのか」
「いや、どこかで聞いたことのある話だったから」
「気のせいだろう。王太子廃嫡とか下手したら不敬罪だぞ」
「今は不敬罪はないぞ」
「そういう話じゃないだろう。とにかく頼んだぞ、レオナード」
マルコが出て行ってからレオナードは回想した。
初めからエリザベート嬢は王妃に相応しくないのではという話はあった。お茶会での傍若無人ぶりは有名であった。しかし、昔もっと問題があったのはレオナード王太子のほうであった。
生まれながらにして王であり、誰からもかしずかれるレオナードは何にでも感情的で自分を制御できない子供だった。
当時王も王妃も仕事が忙し過ぎて、母の実家である公爵家に教育を任していたのも理由があった。
その公爵家は下級貴族を見下しており、王宮の従者やメイドをバカにしていた。
レオナードは公爵家と同じように身分を低い者を馬鹿にするようになった。
気に入らなければ暴力的になっていたレオナードの問題気づいた王夫妻が王宮の従者たちに教育をお願いしたが、メイドたちも王子に強く言えるものがなく問題は解決しなかった。
年子で生まれたパルティはとても大人しく、公爵家の教育でも問題なくレオナードの資質の問題ではないかと言われた。
9歳の時にエリザベート嬢との婚約の話が出た。王家、ノヴァンシュタイン家もあまり気が進まない縁談。
一応、一度顔合わせてみよう。お互いに気に入らなければ、この話はなかったことにしようと内々で決められた。
そして両家のお茶会が開かれた。
メイドに手を引かれて行った日のこと今でも覚えている。
レオナード王太子のエリザベートに対する初印象は金髪の巻毛のツインテール。桃色の頬。まるで人形のように可愛らしい。そして
「なにやってんのよ!きがきかないわね。お茶会なのにチョコレートもないの?!」
え、うちのメイドに何言ってるんだろう。
主人でもないのにいばりくさった女の子。
え、おれの親は王様なのにその態度?
沸々と怒りが沸いてきて沸騰寸前だったところに、
メイドがいやらしく言った。
「お似合いですわね、レオナード王太子殿下」
あれと?お似合い?
その後はショックすぎて記憶がない。
以前からメイドたちからは表向きではかしずかれているものの、裏では馬鹿にされていると気づいていた。でも、ここまでとは思わなかった。
そのことをマルコに相談したら、確かにお前はエリザベート嬢よりひどいと言われた。
あんなに自分はひどいのか。目の前に反面教師が現れたことで、レオナードは少し大人しくなった。
お茶会では特に二人は何もなかったので、二度目の顔合わせがあった。
レオナードとパルティの剣術稽古をエリザベート嬢が両親を連れられて見に来た。
レオナードは剣術が苦手であった。一応令嬢の前でかっこよく見せたい気持ちはあったのだが、全く身体がついてこない。
二人の模擬戦ではレオナードは連敗であった。
王と王妃の前で師範はパルティばかり褒めた。
疲れてもう帰ろうか迷ったときだった。
「レオナード様もがんばっているのに、ほめられないなんておかしいわ」
9歳のエリザベート嬢がレオナードのために怒っていた。
バカ、そんなことを王さまの言えば、しばり首なんだぞ!
女の子がレオナードのことをかばったことよりも、レオナードはそのことに恐れた。
王と王妃がレオナードのところに向かった。
「確かに負けてしまったけど、ちゃんとがんばっているわね、レオナード。」
「あの子の言う通りだ。ちゃんとお前もがんばっている。ほめるべきだった」
王と王妃ではない、父と母の顔。
祖父の公爵やメイドたちにはよく、王さまに逆らうとしばり首と言われ、王と王妃にはわがままを言うことはできなかった。でも、それはウソだった。言えばちゃんと受け止める父と母だった。
ちゃんと父上と母上と話そう。
もっと会ってほしいこと。
レオナード王太子は以前より王や王妃に接見を求めるようになり、王と王妃もできるだけ答えるようにした。
親子で他愛のない話ができるようになる頃、レオナード王太子の暴力的な部分は落ち着いた。
自由奔放なエリザベート嬢のおかげでレオナード王太子が落ち着くようになったことに王家は喜び婚約を結ぶことになった。
レオナード王太子はかばってくれたエリザベート嬢への恩を忘れることはなかった。
レオナードは思った。エリザベートはまったく聞き分けがないと言うわけではない。注意する人がいないのだ。
公爵夫妻はエリザベートにとても甘い。王宮のものは王妃以外、誰も自分より身分が高い公爵令嬢を注意しようとしない。あったことを後で王妃に言うか噂を流すのみだ。
レオナードにエリザベートやマルコが居たように、エリザベートに対等な人がいれば良いのだが。
レオナードは有用な人材はいないか尋ねることにした。