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第五話

本日夜に次話アップ予定です。

次の日。



登校時間ギリギリに着けるよう、いつものように学校へ向かう。

今のところ入学して、1度も休んでいない。

それだけでも僕にとっては成長だ。

毎朝母さんも心なしか笑顔な気がする。



「おはよー沖田くん!」

と、声をかけてきたのは藤原だった。


「…おはよ」

「沖田くんもこっち方面だったんだね!

 いつもこの時間なの?」

「うん…。この時間」

「そっかー!だから会ったことなかったんだねー。

 私いつもはもう少し早いから」


たしかに。

藤原はいつも早い気がする。

といっても、僕からしたら皆早いのだが。



「沖田くんいつもどんな本読んでるの?」

自然と一緒に登校する流れとなってしまった。

こんなところ、周りの生徒が見たらどう思うのだろう。

勘違いするのだろうか。

いや、彼女と僕が釣り合うわけがないから、さすがにしないか。

そんな事を頭で考えていた。



「色々。最近は時代物が好き」

「歴史系?私特に苦手だなー。

 けど、映画は好き!

 映画館もよく行くし、よくツタヤでも借りてみるかなー」


そう言いながら彼女は、最近見た映画や気に入った映画の話をしていた。

僕はそれを聞き、自転車を押しながら歩いた。



校門まで来ると、チラチラと周りの生徒に見られている気がした。

視線に敏感な僕には、少し痛かった。

それを気にしてか、そうじゃないか、タイミング的に分からないが彼女が言った。



「じゃ沖田くん!私先に行くね!」

そう言って彼女は昇降口へと走っていった。

それと同時に周りの視線は僕から外れた。

少し上がっていた肩がストンと落ちるのがわかった。

少し力が入っていた事に気づいた。


彼女が向かった先には、彼女といつも一緒にいる同じクラスの"山本百合香"がいた。

藤原と山本はお互い"おはよー"と言い、校舎の中へと入っていった。

山本が横目に僕をチラッと見たのがわかった。

僕は駐輪場に行き、自転車を停めて昇降口に向かった。




「沖田おはよ!」

教室に入ると朝練終わりの加藤が声をかけてきた。


「…おはよう」

「なぁなぁ昨日のあれ見た?」

加藤はそう言うなり、昨晩のテレビ番組の事を話していた。

僕は基本テレビもあまり見ないため、加藤が話している内容がいまいち分からなかった。

彼は昨晩のバラエティに出ていた芸人の話をしていた。

そうこうしているとすぐにチャイムが鳴り、佐藤先生が教室に入ってきた。



「今日は放課後に委員会が早速あるから、

 それぞれの委員は指定された教室確認しとけよー」

そう言いながら、教室後方の黒板に容姿を貼った。



「うわっまじかー。

 先輩に言わないとじゃんー!」

「いや、2.3年も一緒だから分かるだろ」

加藤と佐藤先生のやりとりに、クラス中が和やかに笑っていた。



それからすぐ1限が始まった。

授業が始まると僕の気分は少し落ち着く。

昼休みまで授業の合間は10分ずつの休憩しかなく、"間"が開かないからだ。

入学して1ヶ月が経過して、加藤と藤原以外の生徒も僕があまり話さない事が分かってきたのだろう。

無理に話しかけてくることもなく、僕が1人で本を読んでいても特に気にする人はいなかった。

いるようでいない感覚。

だが、僕にはそのくらいがちょうど良かった。

最初はどうなるかと思っていたが、ようやく僕も今の雰囲気に慣れてきた。




昼休み。

購買に走っていく人、他のクラスの友達と待ち合わせをする人それぞれだ。

僕は今日弁当を持ってきていない。

今日はパンでいいかな。

そう思い購買へと向かった。


購買は弁当やパン、ジュース、お菓子を買う生徒で溢れていた。

なかでも、唐揚げ弁当とのり弁、カレーパンの人気は高い。

僕は焼きそばパン、ピザパン、ピーナッツクリーム入りコッペパンを買った。

いつもは教室で弁当を食べるが、今日は天気もいい。

" 外のどっかで食べようかな "

なんだか、そんな気分だった。



といっても、どこか目ぼしい場所があるわけではなかった。

あてもなく歩いていた。

鉄板の屋上は施錠されてて入れないし、渡り廊下のベンチは人通りが多い。

しかも外に来てみて初めて知ったが、意外に外で食べている生徒が結構いた。


「…」

やっぱり校舎の中にしよう。

そう思い、校舎の中に入った。

大講義室と呼ばれる学年集会などがある際に集まるどでかい会議室や、生徒が自由に使える休憩スペース。

あまり行ったことがない場所をぐるぐると歩いていた。


すると、ふと目に入った教室があった。

移動教室で使われる棟1階の1番端にある、普通サイズの教室よりも半分くらいの大きさ。

こんな部屋があったのかと、扉を開けると中は用具室のような場所だった。

机や椅子はもちろん、ダンボールや本、色々とあった。

今も使われてるのかそうじゃないのかよく分からなかったが、見た感じ使っていないだろう。

僕にはうってつけの場所だった。

カーテンを開け、窓を開けた。

陽が差し込んで、風が抜け、とても心地よかった。

フェンスに沿ってある花壇がとても綺麗だった。

恐らく普段ここは誰も通らず見ない花壇だろう。

けど、しっかりと手入れされているようだった。


藤原かな?

ふと彼女の顔が思い浮かんだ。

彼女が手入れしているのだろうか。

でも、ここまで?

違うだろうな。

そう思いながら椅子に腰掛け、僕はパンを食べた。


いい天気で、窓から入る風が心地いい。

パンを食べ終わって、持ってきた本を読み、途中自販機で買ったコーヒーを飲む。

お腹も満たされて、若干眠気がくる。

少し瞼が降りてくるのを我慢して目を開ける。

その一瞬で、どの部分を読んでいたか迷子になる。

「…あーーーー」



「どうしたの?」

急に声をかけられた。

びっくりしすぎて、眠気が飛び、目ががっと開いた。

窓の外で僕を見ていたのは、藤原だった。



「っびっくりしたー…」

「ごめんごめん。

 なんか見たことある人がいるなーと思って」

そう言いながら彼女は笑った。


「ここで何してるの?」

「いやっ…昼ごはん食べて本読んでた」

「いつもここでご飯食べてるの?」

「いやったまたま見つけて…なんとなく」

「こんなとこあったんだねー、知らなかった!」

彼女は、少し中を見回しながらそう言った。


「私、あそこの花壇をこの間手入れしてて、その続きを見にきたの」

あれはやはり彼女だったのか。



「あまり見られない部分だけど、

 ここも良いよって先生が言うから。

 気が向いたら手入れしにきてる感じ」

「好きなんだね」

僕は彼女にそう聞いた。

純粋に思ったから聞いたが、彼女は少しだけ眉を落として、少し寂しそうな顔をした。


「うん…花は好き」



そう言った彼女の顔がなんだかとても印象的で、夜までずっと脳裏に残ったままだった。


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