第四話
後ほど次話投稿予定です。
「じゃあ他の委員決めするよー!
まず体育委員!やりたい人!手あげて!」
加藤がそう言うと、さっき加藤を学級委員に推薦した小林が手を挙げた。
「はい!体育委員俺やるよ!」
「翔太!他いない?
そしたら女子誰かいるー?」
自然と加藤が仕切って、藤原が黒板に書いていく。
こんなにスムーズにできるのは、2人だからなのか。
最初からずっと2人に関心しっぱなしだった。
「じゃあー次は図書委員!」
"あっ…"
と思った。
委員決めが始まる前、加藤に"図書委員をやれば?"と勧められていたからだ。
だが、積極的に行事や人に関わりを持ってこようとしなかった僕は、手を挙げる事でさえも臆病だった。
とてつもなく勇気がいる事だった。
「図書は、俺沖田を推薦する!
あいつ本好きだし、色々丁寧だからさ!」
加藤が間髪入れずにそう言った。
"え?" と僕は加藤の方を見た。
加藤はなんだかとても嬉しそうに笑っている。
「確かに!沖田くんがいいと思うよ!」
藤原もそう言いながら僕の方を見た。
周りの生徒も、"え?"と言った表情で次々に僕の方を見た。
一気にぴんっと背筋が伸びる感覚がした。
「…」
目が点になるとはまさしくこういった感じなのだろう。
あまりにも急すぎて、けれど自分に意見を求められてる状況だったが声が出ずに、顔を上下に振る事さえしかできなかった。
「よし!決まりな!図書の男子は沖田で、女子は?誰かいる?」
僕の反応を特に気にする事も、追求する事もなく、さらっと次に進めた加藤。
それと同時にみんなの視線も僕から外れた。
安堵のため息と肩の力が抜けるのが分かった。
あぁ、この一瞬でこんなに力が入ったのかと驚いた。
またおもしろくない反応をしてしまった…。
そう思った。
全ての委員決めが終わり、加藤が席に戻ってきた。
「図書委員、大丈夫だった?」
こういった気遣いができるのが、加藤の性格の良さかもしれない。
「うん…大丈夫。
急でびっくりしただけ」
「そか!よかったー」
加藤はそういって椅子に座った。
「まぁなんもないとは思うけど、なんかあったら言えよ!
手伝うからさ!
あと、テスト期間は図書室使えそうだったら図書室で俺に勉強教えてな!」
そう言いながら、また加藤はニカッと笑った。
そんな加藤の顔を見ると、なんだか釣られて口角が上がった。
放課後。
部活生は終礼が終わると同時に教室を飛び出していく。
僕の高校は文武両道だが、県の国体指定校にもなっている。
そのため、学年の4分の1程度はスポーツ推薦入学だ。
国体指定に選ばれている部活は、上下関係が厳しい。
部活の準備等も1年が行う事が多いらしく、そのため終礼と同時に飛び出していく生徒が多いのだ。
着替える時間も惜しいのか、終礼が始まる前から制服の下に練習着をこっそり着ている生徒もいる。
それは見ていて "不思議だなあ" と思うのと同時に尊敬する。
他人との協調性だったりを避けてきた僕にとって、どうしても理解できない事だ。
「じゃあ沖田また明日な!」
そう言って加藤は僕の返事を聞く暇もなく、教室を出ていった。
クラスの大半は部活生のため、気づけばほとんどの生徒が教室からいなくなっていた。
駐輪場に行き、自転車を校門まで押していく。
カゴいっぱいに入ったボールを持った野球部員が、2.3人コンクリートの上を走っていく。
その度に金属スパイクがカチャカチャと鳴る。
2.3人が通り、その後ダダダっと大人数がグラブを持って走っていく。
邪魔にならないように僕は立ち止まる。
グラウンドを見ると他の部活生もアップをしたり、コーチの周りに円になっていたり。
葉桜が風に揺れる。
陽が傾きつつ、まだ日陰は肌寒い。
ふと見ると、グラウンドと反対側の花壇前にあるベンチに座っている女子生徒がいた。
あの横顔は彼女だ。
背もたれに少し寄りかかり、足先のローファーを少し組んでいる。
両手はブレザーのポケットに入れ、イヤホンをしている。
花壇の花を見つめている横顔は、陽のせいか本人のせいか、なんだかとても哀愁があった。
すると彼女も僕に気づき、こっちを見た。
少し口角が上がった。
「沖田くん、今帰り?」
僕は上下に顔を振った。
「…藤原は何してるの」
「今朝ね、この苗を植えたの。
マリーゴールドって知ってる?」
「…聞いたことはある」
「1年草なんだけど、すっごいかわいいから咲いたら見てね」
そういえば加藤が、藤原の家は花屋だと言っていた。
「家が花屋なんだっけ」
外で開放感があったからだろうか。
自分から質問をしたのは初めてだった。
「そう!花屋!私も時々手伝ってる。
先生にお願いして時々花を植えさせてもらおうと思って。
家の花は売り物だけど、ここだとただ好きな花を植えられるじゃない?」
なるほど。
本当に花が好きなんだなと感じた。
「さーってと、帰ろっかな!
じゃあね沖田くん!また明日!」
そう言って藤原は校舎の中に戻っていった。
「…じゃあね」
ぼそっと答えた。
すると気づいた彼女は振り返って少し笑い、手を振った。
底抜けに明るく見える彼女だが、実は夕陽が似合うなと思った。
なんだか、"儚い"
この言葉がとてもしっくりくるような、そんな雰囲気だった。