第一話
本日夜に次話投稿予定です。
中学校でいじめを受けていた僕は不登校だった。
当然気を許せる友達もおらず、家庭教師に来てもらい受験勉強をした。
元から中卒の選択肢はなかった。
地頭は良かったのか、県内でも上位3位に入る高校に合格した。
同じ中学から進学してきた同級生は、せいぜい2.3人。
僕はまた一からやり直せる機会だと思った。
だけど、不登校のブランクは大きく、入学式の日、教室で皆各々話しているなか、僕は自分の机で本を読んでいた。
真新しい制服に身を包んで話している皆の顔は、これからの高校生活への期待と、ちょっとした不安が混じったような表情をしていた。
そんな中1人で本を読む僕は、かなり浮いているだろう。
「何読んでるの?」
そんな時、急に話しかけてきたのが君だった。
一瞬はてなマークが頭に浮かび、
"もしかして僕が話しかけられてる?"
と思い、顔を上げると、目の前には大きな目をぱちりと開け、綺麗なロングヘアをゆるく巻いた、少し大人っぽい雰囲気の君がいた。
まさか初めて話す生徒が女子だとは、しかも誰がどう見ても綺麗な子。
目の端で他の生徒が、こちらをチラリと見ているのがわかった。
目を引く人とはまさしく彼女だろう。
「…小説」
僕の目を真っ直ぐに見つめる彼女に、僕は答えた。
「カバーまでしてある。すごいね!本が好きなんだね」
「…まぁ…」
なんて会話を続ければいいのか分からないし、特に僕が話すことはないので、とても気が利かない返答をしてしまったと思った。
だが彼女はなぜか、"ふーん" と言いながら、僕の目の前の席に腰掛けた。
彼女からはほんの少し、ふわっと良い香りがした。
僕は基本女の人がつけている香水などの匂いが嫌いだ。
香水は僕にはかなりきつい匂いで、バスでその匂いが香った時なんかは酔ってしまって最悪だ。
だけど、彼女から香った匂いは香水とは違い、そんなに甘くなく、上品で、きつさがない、自然な柔らかい香りだった。
一瞬顔を見ただけでわかる。
彼女はいわゆるモテるタイプの女子だ。
そんな子がどうして僕なんかに声をかけてきたのか、不思議だった。
「私、活字がすごく苦手で、専ら漫画派なんだよね。
1冊読むのにどれくらいかかるの?」
また突拍子もない質問だなと思った。
「…読もうと思えば1.2時間で読み終わるけど…」
「え!すごいね!
私漫画でさえ1日はかかるよ!
何回も読み返すし!」
「小説も何回か読み返すよ」
「へー!それはすごいね!」
そう言いながら彼女は、不思議そうに、本当に驚いたように僕を見ていた。
一瞬時が止まったかのような感覚だった。
久しぶりに同年代の、しかも女の子と話している状況だからかもしれないが、窓際の席で、開いた窓から入る風で僕に届く彼女の香りが、余計に不思議な感覚にさせた。
雰囲気でわかる。
他の生徒が注目している。
恐らく原因は彼女だろう。
「友香ー」
遠くから別の女子の声がして、彼女は「はーい」と返事をしながら去って行った。
数年ぶりくらいに同級生と話して、心臓がバクバクと脈打っていたのが分かった。
だが僕はあまり顔には出ないタイプ。
恐らく周りには気づかれていないはず。
大丈夫。
そう自分の中で何度もぐるぐると考えた。
女子と話しをしたのは、小学生以来だと思う。
本を見る横目に、僕に声をかけてきた女子をちらっと見る。
やはり、クラスの他の子よりも断然大人っぽい顔と雰囲気をしている。
そんな子が、なぜ僕なんかに声をかけてきたのか。
本に目を向けていてもそればかりが頭に浮かんできて、その日は全く本が進まなかった。