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4-5 死闘3

 ……が。


「っく、あんた」

「ククク、恐れ入りました。 ステキな武器をお持ちで。このワターシをここまで追い詰めたのはアナタが初めてですよ、アマービレ。これはもう、ワターシの右腕は使い物になりませんねぇ、ナイフが骨まで食い込んでいます」


 足首を守るように下げられた腕に、アマービレのナイフが刺さり、そして容易には抜けなくなってしまったのか、膠着状態となる。


「マリィ姫、〝最後の一手〟は!?」

「ダメです、このタイミングではアミィも巻き込んでしまいます。敢えて急所を外して脚部を狙う作戦でしたのに、腕一本を捨ててまでその狙いを外してくるだなんて……」


 ナイフを抜くこともできず、これ以上身を危険にさらす訳にもいかない。アマービレはナイフから手を離して後退する。

 敵も手負いとは言え、構図としては武器を失ったアマービレと残り手札の少ない僕、そして左手一本とは言え一騎当千の〝G〟の階名持ち〟という絶望的な状況だ。


 僕の残存フォルツの量からしても、使える手札はまだ未開示のあの魔法と、残り少ない商品。武器落ちのアマービレとどう連携するか…………と、その前提はすぐに覆される。


「あれ、アマービレ、そのナイフ……」

「予備のナイフよ。普通持ってるわよ、そのくらい」

「そっか、僕が売ったナイフ以外にも、元々持っていたものがあったか。〝幻月〟無しで戦える?」

「私を誰だと思ってるの? 手負いの敵相手だなんて、目を瞑ってても余裕なくらいだわ」

「あはは、頼もしいや」


 軽口を交わし合う僕らに対し、〝G〟は徐々に顔色に怒りを浮かべる。


「ワターシ、今まで恐れられることがあっても、笑いものになったことは無くってですねぇ、非常に不快です。――階名持ちにもなれなかったその他大勢の分際で!」


 投擲されたメスを、僕の前方に躍り出たアマービレが全て弾き落とす。

 それを合図に、再び刃の交錯が始まった。


 ナイフとメスが衝突する金属音が高速のビートを刻んでいる。

 実力は尚も拮抗。敵は手負いだが、アマービレも短期集中で回していた身体機能強化の魔法が打ち止めになったらしい。


 しかし、戦闘スピードが少し遅くなった今なら僕の体術も役に立てられる!

 ヒット&アウェイを基本戦術に、ガントレットで敵の攻撃を払いながらアマービレが動きやすいように隙を作る。特訓時のアマービレの速さに比べれば、少し余裕があるくらいだ。


 形勢としてはこちらが徐々に押している。このまま首を狙うのは望み薄だとしても、足を奪えれば僕らの作戦発動条件が整う。


 よし、僕も残りの手札を活用してたたみ掛けるぞ!

 一度距離を取り、取り出したるは〝高圧水鉄砲〟。仕組みは単純、〝水弾〟の魔法陣が組み込まれていて、フォルツカートリッジからフォルツを供給することで最大六発の強力な水鉄砲を放てる。急所だなんて贅沢は言わない、可能ならば脚部へ追撃して機動力を削ぎたいね。


 ステップを踏むように移動を続ける〝G〟の足下を狙い、一発、二発。当たらず。

 それで掴んだ照準の合わせ方のコツを反映させて三発、四発。当たらず。

 まずい、いよいよ後が無いぞと五発目の照準を合わせ、アマービレの強烈な一撃に〝G〟が踏ん張ったところを狙い、両足に一発ずつ。よし、命中したぞ!


 ……命中したんだけど――――


「おや、ヒヤッとしましたが、これは不発ですかね?」


 威力低すぎませんかね!?

 しまった、フォルツカードリッジの残量を確認していなかった。たぶんフォルツ量が足りていなかったんだ!

 何をやってるケルミット、これが決着の一手に繋がってたかもしれないのに!


 そんな僕を余所に、剣戟は続いていく。まずいぞ、もう僕に打てる隠し種は、虎の子の大魔法だけだ。

 僕の動きのバリエーションも少ない。既に敵は僕の動きのパターンを見切り始めている。

 アマービレに頼りきる他ないのか? 特別なナイフを奪われ、身体機能強化の魔法の効果も切れた予備のナイフを振るうしかない彼女に――――ふと、アマービレが持つナイフに目が止まる。


 既視感があった。あれは、あのナイフは扱ったことがあるぞ。

 シリーズものになっているハンティングナイフで、狩猟時に役立つ魔法がいくつかラインナップされている。まだ発売されて日がそう経っていなく、人気商品だから僕の店でも一本しか入荷できなかったんだ。その一本は、入荷直後に売れてしまった。

 売った相手は……? そうだ、ローブのフードを目深に被った小柄なお客さんだった。発売された時期からしても、アマービレが持っているのは不自然……いや、あの時のお客さんは……!


「アマービレ! ナイフにフォルツを込めるんだ! 詠唱(トリガー)は〝リフレクション〟!」

「ケルミット!? なにを……ううん、わかったわ」


 アマービレに向けられた僕のメッセージを警戒してか、Gから立ち上る気配が一層強くなる。


「何もさせませんよ、そろそろ仕舞いにしましょう!」


 手品のようにメスと挿げ替えられた注射器を三本指の間に挟み、それを前に突き出しアマービレに突進する。同時。


「リフレクション!」


 アマービレが発した詠唱に呼応し、一瞬ナイフから光が発せられ、刺突の勢いそのまま〝G〟は後方へ弾き飛ばされる。野生の熊や猪の相手を想定したこの魔法は、相手の力を逆方向に作用させ、大きな隙を生むことができる。

 そして今、アマービレと距離を引き離された〝G〟は崩れた体制のまま隙を晒している。

 今しかない!


速読読込(リロード)脳内転写(ペースト)、――――〝絶対零度〟!」


 〝G〟がいる座標を中心として、一気に気温が降下する。その影響は、ちょうど濡れていた〝G〟の足下から現れ始める。


「むむ、靴底の鉄板が張り付いて――――」

「マリィ姫!」

「ええ、お覚悟を! 詠唱待機解除、捕縛、固定化、体内フォルツ掌握、〝神経迷路〟」


 時間にしてふた呼吸(五秒)程度か。少し時間をかけて発現された魔法の後に、〝G〟は力なくその場に倒れ伏せる。これは……決まったか?


「マリィ姫……」

「ええ、確かに魔法の影響下に置きました。かの〝階名持ち〟の神経系は全身において断裂され、呼吸と会話程度しかできなくなっています。簡単には殺してあげません、徹底的に尋問させていただきます」

「ケルミット、私たちの勝利よ。私が抑えて、ケルミットが攪乱して、マリィ姫がとどめを刺したの。私たちだからできたことよ」


 言葉にされて、ようやく実感が沸いてきた。


「よかった、国を守れたんだね……!」


 今更腰が抜けて、情けないことにへたり込んでしまう。極度の緊張からの開放からか、安心感からか。

 そして気がつけば、辺りを淀ませていた〝劇場〟の瘴気が晴れている。術者が機能を維持できなくなった証拠だ。


 いよいよ完全勝利だ! 直に城の機能も元通りになるぞ!

 三人で寄り合い、額を付き合わせて喜びを分かち合う。これでマリィ姫が見た最悪の未来は回避できたんだ!

 そんな僕らを見る憎悪に満ちた顔が、真っ黒な呪詛を吐く。


「これでこの国が勝ったとでもお思いですかァ! 抜かりましたね、ワターシはたとえ首だけになってもねェ! 〝報復のテア――――〟 」

「――――我が子が許したとしても、余がそれを許すことは有り得ぬ」


 〝G〟の舌が見えない何かに縛り上げられる。その魔法の術者は――――。


「お母様!」

「じ、女王殿下!」


 身体の調子を取り戻した陛下が〝G〟の捕縛をより完璧なものとする。陛下は小さく嘆息すると、マリィ姫に語りかける。


「油断するべからずと教えているでしょう、マリアヴェルネア。舌以外を封じたとて、この手合いは自身の敗北を仲間に報せるなり、あるいは自爆や自殺するなりいくらでも手は取ってくる」

「申し訳ありません、お母様。詰めが甘かったようです」


 マリィ姫がしゅんとする。対する陛下は、口角を少し上げた。


「とはいえ、大義であった。余もこの場にいたのだから、なぜこのことを内密にし三人だけで巨悪に挑んだのかは察せられる。……まぁ、それを加味したとしてもマリアヴェルネアには説教が必要だが……アマービレ、ケルミット・ショルティ、汝らの活躍は国を挙げて称えることを約束しよう」

「いやぁ、そんな恐れ多い――――」

「あら、それじゃあ、うんと美味しいものをいただこうかしら」

「ちょっと、アマービレ!」


 一国のお姫様が垣間見た破滅の運命は、駆け出し商人と元暗殺者を合わせた異色の三人によって打ち砕かれた。

 これで本当に終わりなのかは少し不安が残るけど……。


 さて、これから先の後処理も忙しそうだ。色々好き勝手やっちゃったお咎めは姫だけじゃなくて僕らにも及ぶのだろうか。それでも、成し遂げたことの大きさで大目に見て欲しいな。

 城を覆っていたおどろおどろしい朱は、暖かな夕日に変わった。まずは暖かいスープと柔らかなベッドが欲しいな、だなんて思いながら、扉を大きく開け放ち雪崩れ込んできた兵士たちの波に、僕は姫とアマービレごと飲まれていった。


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