表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

4-4 死闘2

「アマービレ!」

「ええ、特訓の成果を見せるわよ、ケルミット!」


 かけ声を合図に一斉に左右に散る。 左方からアマービレが強襲することで白衣の男の注意を集める。その隙に右方の僕は〝縄蛇〟を放ち、直後に投影水晶を起動させる。


速読読込(リロード)脳内転写(ペースト)、――――〝火炎渦〟!」


 放ったフォルツが流れる僅かなラグの後、 対象となる〝G〟を炎の渦が包む。 しかし〝G〟は対処など慣れたものと、高速で回転し魔法を霧散させた。

 とは言え、 僕の目的は魔法によるダメージじゃない。


「おっと、一本とられましたねぇ」


  魔法により加熱された〝G〟の熱に反応した〝縄蛇〟が高速で飛びかかり巻き付く。〝 G〟は器用に手首をしならせて〝縄蛇〟を切り離すが、その一瞬の隙が欲しかった。


「先ずは一太刀、 もらったわ」


  首筋にアマービレのナイフが向かい――――上体を逸らした〝G〟の脚部(・・)をなぜか身体を落としていたアマービレが斬り抜ける。


「んん? 今の珍妙な現象はなんですか。 確かに急所を抉ってきたかのように思いましたが」

「あら、手札を易々と解説する暗殺者がいると思って?」

「それもそうです。 しかし、さすが強者と戦う心得ができていますねぇ。 警戒される急所を敢えて外し、 機動力を奪いにきましたか」

「脚よりも腕を良く動かすあなたにとっては大した傷でもないでしょうけどね。 それでも少しは気が引き締まったんじゃない?」

「この傷が決して浅くないことは目に見えて明らかでしょうに。言うようになりました、ねぇ!」


  縄蛇から脱した〝G〟がアマービレと僕、 同時に両方目がけてメスを投擲してきた。難なくナイフで弾き飛ばすアマービレに対して、僕は拡張義手で身を守るのがやっとだった。


「危ない危ない、 防刃硬化剤を塗布しておいて良かった。 そのままだったらおシャカになってたかも」

「ふむ、ただの金属なら余裕を持って貫ける一撃を放ったつもりでしたが……あなたに対する認識を改めなければならないようです。 次からはより殺意を込めましょう」

「そうそう次があると思う?」


 アマービレが激しく追撃をかける。 脚部の傷の影響も少なくはないのだろう、 先程までの交錯と比べ、アマービレが押しているようにも見える。

 たたみ掛けるなら今かも知れない。投影水晶を起動させ、 第二の魔法を放つ。


速読読込(リロード)脳内転写(ペースト)、――――〝水龍〟」


 水と風の複合魔法。狙いを定め、 暴風を撒き散らして放たれた水の龍が〝G〟を襲う。

 水の質量による衝撃と呼吸の制限により、体力を奪い平衡感覚を狂わせ、アマービレが動きやすくするのが狙いだ。

 ――――のはずだったけれど。


「あまりの早さに少し驚きましたが……魔法というのは親切ですねぇ。 詠唱破棄に限りなく近くはありますが、それでも〝今から攻撃しますよ〟と宣言してくれるだなんて」


  〝水龍〟は〝G〟の一振によって放たれた衝撃波で真っ二つに裂かれ、水滴となり飛び散った。

  こちらを見もせずに、だ。

 アマービレの相手をしながらの芸当であることが殊更に〝階名持ち〟の強大さを主張する。


「畳み掛けます! 展開する偽装兵、〝土槍〟!」

「ん〜、見え見えですねぇ」


 合わせて複数放たれたマリィ姫の魔法攻撃も、〝G〟が撒いた薬品に触れて解け落ちる。

 更には僅かな隙を縫って放たれる投擲攻撃によって、 マリィ姫の守りにもダメージが入り始めた。

 その尖状障壁が破られてしまうということは、即ち姫自身が身を守る手段を失うということだ。 そうなる前に急いでカタを付けないと。


 アマービレが立ち位置を誘導して、Gの視界に僕が入る。

 今だ! 腕を持ち上げ、 三つ目の投影水晶を起動させる。


速読読込(リロード)脳内転写(ペースト)、――――〝極点閃光〟」


  投影水晶が激しく光り、 目をくらます閃光が走った……ようにGには見えているはずだ。 スポット状に範囲を限定した閃光はGの視覚だけをピンポイントで奪う。

 これが決まれば大きなアドバンテージになるけれど……?

 光を受け後方へ飛び退いたGがいた場所に、何かが落ちている。 小さく光るそれは……火薬か!? 導火線の火だ!


「みんな、伏せて!」


  僕の焦燥を受けアマービレとマリィ姫が反応した直後、火薬が爆発する。

 まずい、こんな密室での爆撃は――――あれ、なんともない?

 熱や飛来物の類いが感じられない、弱めの爆風と大量の煙――――そうか、煙か! 自らの視界が奪われたのなら、 諸共巻き込んでしまえということか。


 しかし、これはこれでよろしくないぞ。 自前で高濃度の煙玉を用意しているくらいだ、きっと〝G〟は煙の中での索敵ないし攻撃手段を持っているに違いない。


 考えろケルミット、この場における最善策を。

 アマービレはきっと大丈夫だ、素人同然の僕の見立てだけど、あの階名持ちに負けず劣らずの戦闘能力を有している。

 ならば僕が合流すべきはマリィ姫だ。自身の方向感覚を頼りに、マリィ姫がいた方角へ足を踏み出す。

 そう離れすぎてはいなかったはずだ。 大股で十数歩も歩けば合流できるはずだ――が、数歩歩いたところでバランスを崩し膝をついてしまう。


 しまった、 体力を使いすぎたか……? 足に力が入らない。

 気合いを入れなくちゃ、こんな局面で倒れてなんかいられな――――


 ――――突如走った悪寒に突き動かされ、 拡張義手で顔面を覆う。


 金属音と衝撃音、 身体を襲う痺れ。拡張義手が攻撃を防ぎ、 その機体が壊れ崩れる。

  やられた、 前回よりも威力を上げてきたか。けれど、 今の攻撃を防げたのは僥倖だ、第六感ってのもバカにならないね。 ……なんて悠長に考えてもいられないのに、身体は言うことをきかない。早くマリィ姫と合流しなくちゃならないのに――――


「冷静になりなさいケリィ! まずは自分の身を守るために手札を使って!」


  マリィ姫の声と、遅れて複数の金属音、最後にガラスが割れるような音。


「マリィ姫! ごめん、助かったよ」


 姫もこちらに向かってきてくれていたみたいだ。 Gによる投擲攻撃を尖状障壁で防いでくれたのだろう。 けれど、 最後の崩れるような音は……。


「今ので障壁は砕かれました。 再構築にはしばらく時間がかかります。 ケリイ、 お願いできますか?」

「あ、あぁ、アレを使うしか無いね」


 ここでこの手札を切らされるのは今後の展開的に厳しいけれど、今倒されてしまったら今後も何も無い。


速読読込(リロード)脳内転写(ペースト)、――――〝魔障膜〟」


 フォルツを実体化させ柔軟性のある丈夫な膜を作り出す。消費されるフォルツも多く長くは持たせられないけれど この膜は外からの攻撃は防ぎつつ中からは魔法を透過させることができる。

 本当はもっと詰めて最後の一手に繋げるために使いたかったけれど……ままならないなぁ。


「ケリィ、身体の調子はいかが?」

「足に力が入らなくて……」

「この煙には毒があるようですわ。 わたくしは障壁で多少吸い込むのは避けられましたけど、 それでも全力で身体を動かすのは難しそうです」

「そうか、それで……マリィ姫、煙はなんとかできる?」

「ええ、今魔法の構築が完了しました。きっとかの〝階名持ち〟も、わたくしがここまでの魔法の名手だったなんて想像はできなかったでしょうね――――風は巡り、余所者は隠しましょう、 お出かけしていても、 帰る家はただ一つ。〝毒瘴風封〟」


  広がっていた煙が渦巻き、 拳大の球体に収まる。正常な呼吸が戻り、心なしか身体も軽くなった気がする。そして視界が一気に晴れ、ようやく戦況が目に見え――――魔障膜すぐ前の床にナイフが突き刺さる。 このナイフは……僕がアマービレに売ったナイフじゃないか!

 顔を上げれば、 武器を失ったアマービレが防戦一方を強いられていた。Gに対する目つぶしの効果はもうきれてしまっているようだ。


  まずいぞ、流石のアマービレとは言え、武器も無しにやりあうなんて無理難題だ!


「アマービレ! 今武器を――――」

「させると思いますか?」


 〝G〟に視線で制される。 少しでも魔障膜を出れば瞬間射貫くと明言しているかのようなそれに、思わず腰が引ける。


「くっ……マリィ姫、打つ手はあるかい?」

「……作戦に従い、わたくしはもう最後の一手の構築に入っています。 勝利を前提にするのならば、これは崩せませんわ」

「そうか、 そうだね……なら僕がやるしかない」

「ケリィ まさか魔法の多重発現を試みようだなんて思っていませんわよね?」

「まさか、 特訓中一度も成功できなかった高等技術だ、僕もそんな冒険はしないよ。 ただ、 僕は商人だってことを忘れないでくれよ」


 リュックから水筒程度の大きさの筒を取り出す。 それをまっすぐ〝G〟の方に向けて、 筒から伸びる紐を指でつまむ。


「さあ、これは魔法の筒さ。 本来はキャンプグッズで人に向けるものではないけれど、この場においては戦闘を助ける一手になり得る。 行くよ、魔法の着火剤さ!」


 アマービレはこちらの様子に何か察したのか、 筋力で劣っているにも関わらず〝G〟の両腕を掴み硬直状態に入る。 そして僕が紐を引くと、筒の先から細い光が飛び出した。

 商品の扱いなら誰にも負けない自信がある。注視しなければ視認し難いそれは一直線に〝G〟の後ろ髪に向かい、着弾、一気に発火した。


「む、 火炎魔法ですか!」


 Gは両手で炎を払い、 消火を試みる。 けれどそれは簡単には消えないよ、 キャンプ時に湿った木の葉すら燃材に変えてしまうほどの継続燃焼力を誇っている。ただ、やけどを負わせるほどの熱は持っていないんだけどね。

 けれど、今の目的に鑑みればそれで十分さ。

 〝G〟の周囲で散らばっていた〝縄蛇〟の残骸が動き出す。 高い熱反応に誘われて、それらが一気に〝G〟の頭部に殺到した。


「なんと鬱陶しい!」

「さあ、 アマービレ!」


 ナイフを拾い、 アマービレに向けて投げる。 それは見事彼女の手に渡り、 次の一手の優位はアマービレに委ねられた。


 ナイフを握り直し、アマービレは神速の如く〝G〟へ一直線。右方から〝G〟の急所を狙った一撃は、〝G〟の戦闘本能がそうさせたのか、それを防ぐように武器が構えられ――――


「――――幻月」


 武器同士が衝突する金属音は訪れず、幻の剣筋は消え失せ、真の一撃は〝G〟の身体を確実に抉った――――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ