4-3 死闘1
甲高く反響する鈍色の音。
間髪許さぬ連撃を捉えようとまばたきをこらえるけれど、人外の身体能力を誇る二人の動きは全く目で追えない。
でも……ここまでは予定通りなんだ。
〝階名持ち〟の動きはまず初見では追えないだろうとは作戦立ての時点でアマービレから伝えられていた。
それなら僕はお荷物にしかならないんじゃないかと問いかけてみれば「人間は慣れる生き物よ。二人分のスープが煮立つまでくらいの時間は我慢してて。長期戦はムリだけど、それくらいなら一人でも互角に戦えるわ」とのことだったけど……。
時間が何倍にも長く感じられる。何もできないばかりか敵の強大さばかりが際立つこの時間がもどかしい。そればかりか。
「うわっ」
「慌てず、その場から動かないで。投擲による攻撃程度なら、わたくしの尖状障壁で流せますわ」
合間に飛んでくる攻撃からも、お姫様に守ってもらう始末だ。焦るのも無理は無いだろう、と自己を正当化したくなる。
けれど、焦燥に駆られて闇雲に行動してしまえば、それこそ無駄死にだ。
耐えろ、よく見るんだケルミット。速さに目を慣れさせ、作戦の段階を進めるんだ。
飛び散る火花、響く剣戟、踏み込みの足音。集中しそれらを追っていると、だんだんとその発生源の行き先が予測できるようになってきた。
――――いや、予測しているんじゃ無い、目で追え始めているんだ!
まさか本当に短時間で目が慣れるだなんて。これもアマービレとの組み手の賜物かな?
そうしたら、作戦は次の段階だ。アマービレを補助して敵の動きを制限する!
まずはこの商品、色識別機能付き自走虎挟みだ。目標の色を細かく指定でき、敵味方の区別をさせな
がら自動的に対象の動きを制限できる一品だ。
今回は単純、白衣の白を指定している。さあ行っておいで、お前の挟む速度はチーターすら捕らえる。
よし、同時並行して、更に商品を展開するぞう。
取り出したるは魔法生物が入った小瓶。フォルツフライと呼ばれるこの生き物は、近くで最も背が高い生き物に纏わり付く。
払おうが潰そうが内包するフォルツが尽きるまで身体を再構築して飛び回り続ける、いわゆる悪戯グッズなんだけれども、気を散らせるにはもってこいだ。天と地、両方から攪乱してやる。
さっそくフォルツフライが〝G〟の顔に近づき……あら、両断されちゃった。けれど、その商品の本領はここからだ。
「んん? なんですかこれは。鬱陶しいですねぇ」
両断されてもこの通り、力の限り妨害し続ける。
さて、虎挟みの成功率を上げるためにも、僕自身も攻撃に転じよう。右手に装着した拡張義手を起動させる。蒸気機関で強化された怪腕は殴っても握っても脅威だ。そして――――
「プレスト!」
靴に込められた脚力強化魔法を発現させ、一気に飛び出す。
初撃が大事だとアマービレは言っていた。最も意表を付けるのは、一見して戦う力がなさそうな僕が仕掛ける初手だからだ。
強めに発現させた脚力強化により、今の僕の速度はきっと彼らに劣っていない!
右手を引き絞り、渾身のストレートを放つ――――が。
「おおっと、これは驚きました。アナタ、ものすごいスピードですね」
紙一重で白衣の端をかすめる。
初撃は空振り、か。
僕の全力は躱されちゃったけれど……注意を逸らせたのなら成功だ。
ガキンと重い金属音。自走し忍んでいた虎挟みが発動した音だ!
虎挟みは見事靴を挟み込んでいる、これは足も無事じゃ済まないぞ! ……のはずだけど、やけに反応が薄いな……?
「なるほど、これがアナタの狙いでしたか、勇敢な少年。しかし、残念でしたねぇ、ワターシの靴は特別製、鉄の板が仕込まれているのですよ」
一度挟めば容易には開けない虎挟みを両手でこじ開けて投げ捨てる。……規格外にも程があるだろ。
貴重な初撃が失敗してしまった。ここからは高速戦闘での反応勝負だ。
常に死と隣り合わせの中、マリィ姫の攻撃魔法を成功させなくてはならない。
生唾が喉を鳴らす。覚悟はとうに済ませたはずだ、やるぞ、やるしかないんだ!