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3-4 秘策

 五日目の朝、早朝の特訓により疲れた身体を休ませながら品出し作業をしていると、ベルの音と共に大声が飛び込んだ。


「ケルミット少年! 急ぎだと言うから早々に仕上げたぞ。発注を受けていた投影水晶だ!」

「ヌンさん! 早速の納入ありがとうございます!」


 夕焼け書店のヌンさんだ! 書籍だけで無く事務用品全般を取り扱う、加工職人でもあるヌンさんにお願いしていた特注の装備品だ。

 さっそく受け取り、具合を確認する。


「ああ、正に要望の通りです! ガントレットに散りばめられた水晶、一つ一つに投影の魔法が込められていて、登録したページを空間上に映写できるんですね!」

「その通りだ、加工には少し手間取ったぞ。特に水晶を守るために鋼鉄の覆いをつけるなど、例のない要望で苦労した。してケルミット少年、これは何に使うんだい?」

「それはちょっと内緒です。けれど、みなさんのためにもなることではありますよ」

「まあ、あの旦那の息子だ、きっと良いように使ってくれるんだろう。料金はちょびっとだけサービスして、前金から差額無しのぴったりだ。受領書だけ頼むぜ!」


 書類にサインし、商品を受け取る。澄んだ水晶は全部で五つ。それぞれに異なる魔法書のページを封じ、戦闘で用いることになる。

 どんな魔法を封じるかは、良く吟味して決めなくちゃならないね。

 早速ガントレットをはめ、具合を確かめる。うん、全く邪魔にならない。近接戦場にも支障はなさそうだ。


「ジャストフィットです、ヌンさん! 本当にありがとうございます!」

「良かった良かった。では、こちらも仕事に戻るとしよう。またご贔屓に!」


 ヌンさんを見送り、あらためてガントレットに目を落とす。この商品をどう扱うかで、きっと戦況は大きく変わる。商人の誇りにかけて、理想的な運用を模索しよう。




 この日は、アマービレとマリィ姫、僕の三人でどの魔法に絞り込むかを検討することとなった。僕の動き、アマービレの動き、それに合わせる魔法。何度か入れ替えながら、動きのパターンを作っていく。結局一日かけて、水晶に封じる五つの魔法書のページは定まった。

 準備に当てられるのは、残すことあと一日。明日は、今まで積み上げたものを最大限に組み合わせ発揮する特訓だ!




 六日目。この日は店の定休日。少し遠出して、街の外にある森林部まで足を伸ばした。草原地帯よりは外から身を隠せる分不審に思われないことと、近くまで来ている可能性がある〝調律師〟の目を避ける意味合いもあってだ。

 今日は本格的にコンビネーションを組んでいくこととなる。アマービレが主に前線で戦い、僕が近・中距離で遊撃する。そして、二人がかりで大きな隙を生んだところで、マリィ姫の大魔法を喰らわせる。


 こういった流れに持ち込める想定の動きを、幾つも作っていく。覚えきるのは大変だけれど、どちらかと言えばあらゆる状況で反射的に動きを合わせられるようにする訓練に近い。

 繰り返すことで、おおよそパターン通りに動けるようにはなってきた。

 朝から特訓を始めて、あっという間に正午。倒木に腰掛け昼休憩をとることにすると、マリィ姫がにこにことしながら包みを広げる。これは……ランチセットだ!


「すごい! これは姫が作ったのかい?」

「いいえまさか。シェフをたたき起こして作らせましたわ」

「わあ……それはシェフさんに感謝しながらいただかないと」

「マリィ、このサンドウィッチもらっていい?」


 気分は森林浴しながらのピクニックだ。いや、ここにきてやっていることは物騒極まりないことなんだけれど、それでもこんな風な息抜きは必要だ。


 さすが王国お抱えのシェフが作っただけあって、どれも絶品だ。

 思わず頬を綻ばせながらご賞味に預かっていると、食事中の雑談にしてはお堅い話題がアマービレから投げられた。


「まだまだ鍛えようはあるけど、最低限、悪くない動きになってきたわ、ケルミット」

「むぐ、これくらい動ければ役には立てるかな?」

「ええ、私の動きに合わせる、という意味合いで言うなら、間違いなくこの国で一番動けるわ」


 上品に食事を終え、ナプキンで口を拭いたマリィ姫も話題に加わる。


「お二人の動きのパターンも概ね分かりましたわ。きっと〝階名持ち〟の動きはわたくしの目では追えないものになるということでしたけれど、お二人の動く先にいると考えれば、予測し魔法を発現させることも可能でしょう」

「上々よ、そのつもりで特訓したんだもの」


 戦場を支配するのはアマービレ、その動きに合わせて動くという想定でやってきた。仮に敵の動きが読み切れなくても、アマービレさえ敵を補足できていれば、それに付随するように僕とマリィ姫は動くという寸法だ。

 かなりの熟練度が求められるが、手段を限定して特訓したおかげで、きっと不可能ではないと思える。


 決戦の日は最短で明日だ。より練度の高い動きにできるよう、ギリギリまで鍛えていかなくては。

 広げていたランチセットをたたみ、立ち上がる。


「よし、特訓だ! 二人とも、午後もよろしくね」


 木漏れ日が降り注ぐ緑の屋根の下、三人の人影が踊るように煌めいた。


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