弐話 あなたは幸せですか?
家に帰ってきて、こころはテレビを見始める。
こころは今大人気のアニメに夢中になっていて、この時間になると必ずテレビの電源をつける。
「あわわ……。死神ちゃん、やられちゃう……」
こころはそう言いながら、テレビににらめっこしていた。
どうやら死神とやらが何かが倒されてしまうやら。
アニメは最近は見ていないから、あまり話の内容が入ってこない。というか、今時、こんなものが流行っているのか?
僕はコーヒーを煎れながら、こころの様子を見ていた。
コーヒーを2つ作ると、すぐにこころの近くに行って、コーヒーを手渡した。
「あわ……! あ、ありがとうございます……」
こころはアニメに熱狂する中で、コーヒーを渡されたためか、少し驚いていた。
「あんまりテレビに熱中しすぎて、夜ふかしするなよ」
「それは問題ないです。私はこのアニメを見て、寝ますよ」
「それならいいんだが……」
目線をコーヒーへと移した。
茶色に濁ったそれは鼻孔をくすぐってくる。
コーヒーに一瞥し、それをゆっくりと飲んだ。
舌に微かに温かさが伝わり、それが喉を通るまで続いていく。
「あちっ!」
「大丈夫か? 淹れたてなんだから気をつけて飲めよ」
「そうですね……。でも、雨宮さんが入れたコーヒーは美味しいです」
「そうか……。それなら良かった」
僕は安心してまた、コーヒーを飲む。
こころはどうにか学習したらしく、コーヒーを口に入れる前に、ふうっと息を吹きかける。
ズズズ……
僕はコーヒーを飲み終えて、流し台にカップを置いた。
「ごちそうさまでした」
こころは嬉しそうにそう言いながら、コップを僕の方へと渡した。
アニメを見終えて、こころは僕の隣に座った。
こころはどこか遠くを見るような目つきで言った。
「これが幸せというものなのでしょうか?」
いきなりの質問に僕は答えきれずに、ただ戸惑うようにこころを見ていた。
こころはどこか幸せそうな顔をしているのだ。
「私は何かを忘れていた気がします。例えば幸せとはどんなものなのか。それは今なんじゃないかって思うんです。ただ、こうしてコーヒーを飲んだり、テレビでアニメを見たり、アイスを食べたり……。これが幸せということなんでしょう」
「そうだな。それは幸せだと思う」
僕はその言葉に後悔の念が押し寄せて来た。
なぜならこころは自分が消えることを知らないからだと思う。
これから消えるこころが幸せって言えるのだろうか。
消えることは僕にとっても、こころにとっても不幸であって、だからこそ今が幸せと言ってくるこころに不幸であってほしくない。
だったら、こころが消えるその時までに、幸せであってほしい。
ただ残りの消えてしまう1週間までに……。
ただ、今日はこれ以上の話はしなかった。
僕がこころに今、言いたいのは……