第8話 視点:吉田 遥
本日は2話同時投稿です。
1つがスピードスターの吉田遥視点のもの。
もう1つがストームトルーパーの鹿島真琴視点のものです。
先に吉田視点の方から読むことをオススメします。
*ちなみにこちらは吉田視点なのでこのままお読み頂いて問題ないです。
■side:京都府立田神高校 3年 吉田 遥
「逃がすかぁー!!」
倒壊するビルの傍を全速力で通過する。
途中落下してくる巨大なブロック片を回避しながら突っ込む。
ここで逃がしては勝てない。
速度を重視したスピードスターの性能を100%使える市街地戦。
しかしそれは相手も同じ。
右腕を潰したとはいえ、こちらはサブマシンガン2丁と腰のナイフのみしかない。
相手はマシンガンとトイフェルファウスト2つ。
そして腰のサーベル。
明らかに武装的に不利だ。
だったら有利を取っている今、サブマシンガンのみで削り殺すしかない。
「それにしても……速いッ!」
第三世代機ストームトルーパー。
初のホバー移動を可能にした高機動機。
映像で見るのと実際に体験するのは、やはり違う。
私の改造したスピードスターなら―――と思っていたが、一向に差が詰まらない。
つまり、速度的には互角……いやバック走行をしている分だけこちらが不利。
それでも相手が逃げに徹している今がチャンス。
相手がもう何度目になるか解らない曲がり角を曲がった瞬間、両手のサブマシンガンのマガジンを排出する。
そして両手首だけを下に向けると両脇にあった予備マガジンからレーザーが照射された。
一瞬の空白ののち両脇からマガジンが発射されると両手のサブマシンガンに綺麗に装填される。
するとメインモニターにあるサブマシンガンの残弾数が『RELOAD』と表示されたかと思うとスグに正確な弾数になった。
リロードが完了した辺りで機体が曲がり角まで迫る。
「次あたりで……仕掛けてみましょうか!」
曲がる体勢を取る。
握っている操縦レバーに自然と力が入る。
そして曲がり角を曲がり終えた瞬間―――
「―――はぁ!?」
思わず声が出た。
その瞬間、機体が大きく揺れる。
その衝撃を受けながらも操縦レバーは離さない。
必死に前へとブースターを入れて機体が倒れないように耐える。
―――ストームトルーパーが急に体当たりをしてきたのだ。
一度でも転倒してしまうと立ち上がるのに時間がかかる。
そうなればもうアウトだ。
右肩を前に突き出して突撃してきたストームトルーパーによるタックル。
それをまともに受けてしまいパワー勝負に持ち込まれる。
ブースターを全開にしてもジワジワと押し負けはじめた。
そのまま力勝負をしてくれればまだマシだったのだが、相手は左手に持つマシンガンをこちらに向けてくる。
「流石にそれはッ!」
両手のサブマシンガンを捨て右手で相手のマシンガンを掴み、左手で相手の機体を掴んで押し返す。
お互いの押し合いの力に耐えきれず相手のマシンガンがミシミシ音立てて曲がっていく。
何とか均衡を保ち始めた押し合い。
こうなるともうエネルギー残量勝負か?
そう思った時だった。
相手の腰に付いていたトイフェルファウスト2つが急に斜め下から斜め上を見るかのように動いた。
まるでこちらを向くかのように。
「―――しま」
私に出来たのは、咄嗟に右腕を引き戻して盾にするぐらいだった。
腰から遠隔操作で発射されたトイフェルファウストはこちらの右腕に命中し、2機とも巻き込んでの大爆発を起こす。
しかも最悪なことにまだ残っていた外部燃料タンクまで爆発に耐えきれず連鎖的に爆発した。
音と衝撃で何もかも解らなくなる。
そして―――気づけばいつの間にかそれらが無くなり警報音だけが響いていた。
ローラーもブースターも背中以外全て大破。
脚部も左脚部は完全に大破しており、右脚部も僅かに動く程度の状態だ。
左腕は動くが右腕は肩から吹き飛んだらしく無くなっていた。
頭部メインカメラはノイズが多いものの何とか無事と言う感じ。
よくこれで大破による継続戦闘困難という通称『大破判定負け』が起きないなと思う。
「……まさか自分ごと撃つなんて」
Battle Dollsではコックピット内で様々な命令を出すことが出来る。
武器の遠隔操作や自動操縦などだ。
しかしこれらは『試合開始後、1からプログラムを組まなければならない』とされていてハードルが非常に高い。
何故ならこうしたプログラムに精通していなければならないし、戦闘中に片手でプログラムを打ち続けるなど現実的ではない。
だがこうして使用してくる選手も実際には居る以上、それなりに警戒しておかなければならないのだ。
そして試合終了のコールも画面も出てこない以上、相手だってまだ生きているということ。
そう思っていると周囲の燃える街の中から何かが出てきた。
ストームトルーパーだ。
右肩が無く、両足も亀裂が入っておりホバー状態ではなく、そして左手にサーベルを持っている。
それがゆっくりと歩いて炎の中から現れた。
腰にあるナイフを残った左手に装備する。
私は―――最後まで諦めない。
「―――さあ決着をつけましょう!」
ナイフを前に突き出した状態で構える。
すると相手も一定の距離で停止し、サーベルを構えた。
ナイフとサーベルではリーチもそうだが機体性能的にも負けは確実。
「なら―――勝負は一撃必殺ッ!!」
今の脚部状態は歩いて相手の元まで行くことすら出来ないだろう。
だったらやることは1つ。
唯一生き残った背中のブースターを点火する。
出力を上げると警報音が鳴り出すが、もう警報音だらけなので気にしない。
そして上げれるだけ上げてから……全力でナイフを突き出し相手に飛びかかるように突撃をした。
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