第7話
■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華
二日目の本格的な地方予選も特に何事も無く。
「オラオラァ!遅せぇんだよぉ!」
「真正面から撃ち合ってくれるなんて、随分と余裕ですことっ!」
2人によるまさに蹂躙といった感じで勝利を重ねていく。
特に鹿島先輩は、ストームトルーパーが誇るホバーによる機動力というものに慣れていない相手を初見殺しのような形で撃破していた。
その一方的な勝利は、逆に相手選手の心が折れていないか心配になるほど。
「この分だと私の出番は無さそうかな」
今の状況を見れば地方予選はこのまま優勝出来ると思えるほど圧勝している。
そうなるとどちらかが負けない限り出場することがない私は、四葉達と同じ補欠でしかない。
となれば気分も随分と楽になる。
試合も気楽に見れるというものだ。
「さあ、残すところついに決勝戦となりましたっ!勝って全国に行くのはどちらになるのか!」
控室の中にある大型モニターには試合の実況が流れている。
結局、2人の快進撃により無事決勝戦まで進むことが出来たのだ。
対戦相手は京都府立田神高校。
早乙女さんが
「一度も全国出場をしたことが無い所だから相手にならない」
と言っていた。
まあ2人のことだし今回も当たり前のように勝つのだろう。
そう考えれば私は本当に「保険」だったのだなと思う。
いつも通り鹿島先輩がVR装置に入る。
時間になるとVRの戦場へと出撃する。
今回のマップは市街地だ。
巨大な市街地は障害物が多いものの決して狭いという訳ではない。
マップにある様々なものを利用することが大事な頭を使うマップでもある。
スタート位置は、互いに市街地の東西の入口。
―――試合開始
スタートの合図と共に鹿島先輩が速度を上げながら市街地へと入っていく。
中央道路をある程度進むも敵が見つからない。
障害物が多すぎるため、待ち伏せを警戒する場面だが……。
「チッ!」
警報音が鳴りスグに側面から飛んできたロケット弾を急旋回で回避しつつ撃ってきた方向にバズーカを撃ち込む。
命中して爆発したのを確認すると足を止めてバズーカとマシンガンを構え、追撃の姿勢を取る。
だが―――
「くっそっ!!」
黒煙が消えた場所にはセンサー装置の付いた壊れたロケット砲があるだけだった。
つまり囮である。
それに気づいた瞬間、側面からライフル弾が飛んできてバズーカ本体に直撃―――破壊する。
その衝撃で右腕の手首から先が吹き飛ぶストームトルーパー。
何とかホバーを使って後ろに退却する。
だが相手も逃がすまいと姿を現した。
「はぁ!?第一世代かよっ!!」
思わず鹿島先輩がそう叫ぶ。
相手の機体は第一世代機:スピードスターだ。
片足に4つのタイヤと小型バーニアが付いたストームトルーパーの先祖とも呼ぶべき速度型。
ただストームトルーパーとは違いタイヤであるため場所を選ばず走ることが出来ない。
そしてエネルギー消費も多く、何より脚部関節に大きな負担をかけるため長期間戦闘が出来ない。
しかも脚部だけ加速するため機体バランスを維持するのも大変という何とも使い勝手の悪い機体だ。
だが相手のスピードスターはかなりその辺りが改善されているように見える。
加速時のバランスの悪さを改善するため両肩と背中にブースターが付いている。
そしてその背中にエネルギータンクのようなものが4本。
脚部も本来よりも2倍近い大きさになっており、かなり負担を減らす努力をしているのが解る。
その分、恐らく通常の機動力はかなり落ちてるでしょうけど。
しかし会場は市街地。
舗装された道はスピードスターにとって最高の環境。
さっそくローラーと呼ばれるタイヤを展開、ブースターによって高速移動を開始した。
相手を向きつつホバーでバック走行をするストームトルーパー。
左手のマシンガンを撃ちつつ道を何度も曲がることで振り切ろうと必死だ。
対して相手はライフルは置いてきたのか、両手にサブマシンガンを持って連射しながら走行してくる。
本来ならいくらバック走行とはいえストームトルーパーの方が速いのだが、改造されたスピードスターは限定的な場所のみとはいえストームトルーパーとほぼ同じ速度で追走していた。
逃げる第三世代機。
追う第一世代機。
というのもあるがBattle Dollsは本来、巨大な鉄の塊を動かす関係で非常に重量感のある戦いになる。
そのため今のような高速戦闘と呼べるような試合展開など今まで発生しなかったのだ。
なので観客が大いに盛り上がるのは、ある意味当然と言える。
「しつこいんだよッ!!」
何度目かの曲がり角を曲がった鹿島先輩は、倒壊しかけたビルに向かってマシンガンを撃つ。
すると彼女の願い通りに倒壊して道を塞ごうとするビル。
しかし―――
「あぁー!もー!ふざけんな!!」
倒壊するビルに巻き込まれるかもしれないという心理的プレッシャー。
それを跳ねのけた相手が、倒壊するビルから落下する巨大ブロックを回避しつつ走り抜けてきた。
■side:京都府立田神高校 1年 藤崎 美潮
「流石、遥先輩!」
私は思わず声を上げた。
ようやくやってきた決勝戦。
これに勝てれば私達は悲願の全国大会へと行くことが出来る。
ここまでの予選は決して楽なものではなかった。
でも……やっとここまできた。
あと1勝。
この決勝で全てが決まる。
先輩は相手のストームトルーパー対策としてトラップを使うことを考えていた。
マップによって色々とあったが、まさか一番ここならラッキーだと言っていた市街地が選ばれるなんて。
その先輩のトラップは見事に決まり、相手の右腕を破壊した。
本来ならライフルの1撃で相手を戦闘不能に出来れば良かったのだけど……右腕を破壊しただけでも十分でしょう。
そして今、控室にある大型モニターでは第一世代機が第三世代機を追い回すという珍しい画面が映し出されている。
「しかし相手も上手いわ。バック走行でここまで動けるのだから」
那奈先輩の言葉で相手を見る。
確かにいくら第三世代機と言っても操縦しているのは人だ。
恐らくはレーダーマップなどを利用して動いているのでしょうけど、ここまで正確に動けるというのは凄い。
「で、でも右腕潰しましたし遥先輩の方が優勢です!」
「そうね、このまま押し込めればいいのだけど」
思わず声を上げてしまう私に苦笑しながら答える那奈先輩を見て、私は顔を真っ赤にしつつソファに座る。
『この勝負、勝てる』
そう思わせてくれる遥先輩の猛攻。
私はそれを全力で応援するのだった。
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